ミリオンセラーも出た歌手としての力

こうして、とんねるずの行く先々で興奮と熱狂が生み出されるようになった。それはまさに“とんねるず現象”と呼ぶに相応しかった。

とんねるずのカリスマ性は、お笑い・バラエティ以外でも発揮された。

「雨の西麻布」(1985年発売)以来、ミリオンセラーとなった「ガラガラヘビがやってくる」(1992年発売)など歌手としてヒット曲を連発。歌をヒットさせた芸人はそれまでもいたが、その場合、歌は余技にすぎなかった。

一方とんねるずは、コミカルな風味の楽曲もあったが、歌手として評価され売れたところが新しかった。DJ OZMAとのユニット・矢島美容室などを思い出せば、納得できるだろう。

お笑い芸人でも歌手でもあるという、このとんねるずの独特なポジションがテレビ史上に残るハプニングを生んだこともあった。

1970年代から1980年代にかけて一世を風靡した音楽ランキング番組『ザ・ベストテン』(TBSテレビ系)。とんねるずもベストテン入りの常連だった。

事件が起こったのは、1985年10月17日、番組400回記念の放送。この日はいつものスタジオから飛び出し、静岡の日本平で多くの観客を入れての生放送だった。

生放送中に「てめえ、なにしやがる」

このときとんねるずは、ステージからではなく観客席から神輿で登場した。それが間違いのもと。先ほどの「勝ち抜き腕相撲」の件からもわかるように、若者はとんねるずをまるで“マブダチ”のように思っている。だからすぐ近くにとんねるずが来れば、おとなしくはしていない。

この日とんねるずは、番組の記念回ということで特別に豪華な衣装を身につけていた。ところが殺到する観衆にタカさんがかぶっていたおしゃれな帽子をはぎとられるなど衣装はぼろぼろに。怒り心頭に発したタカさんの「てめえ、なにしやがる」といった声やらなにやらがマイクを通じて響き渡る。しかしそれが逆に観衆を煽ることに。

そしてようやくステージまで到達。だがタカさんの怒りは収まらず、「てめえら、最低の奴だ! お前ら」と叫び、演歌風のしっとりした曲のはずの「雨の西麻布」を最初から最後までだみ声でシャウトしながら歌った。

これが、「タカさんぶち切れ事件」である。これも生放送なので、編集しようがない。タカさんが本気で怒っていたのも確かだが、ここでも端々に冷静な計算が垣間見えるところがとんねるずのとんねるずたる所以である。