演者とスタッフの境界線をなくす

確かに生本番中にテレビカメラを壊すなど、後にも先にもないようなことだ。しかしとんねるずが本当にすごかったのは、こうした破壊を単なる若気の至りなどでなく、立派な芸風にしてしまったことだ。

とんねるずは、文字通りの破壊だけでなく、テレビにつきもののお約束や暗黙の了解、一言で言えば古いテレビをことごとく“破壊”した。そして見ている視聴者はそれを極上のエンタメとして楽しんだ。

演者とスタッフの境界線をなくしてしまったのはそのひとつ。たとえば、カメラマンが持っているハンディカメラをいきなり奪い取って、自分が勝手にカメラマンになってしまう。また、どこからか大道具のスタッフが使う金槌を持ってきて本番中にセットを直すと言って叩き始める。こんなことをとんねるずはよくやった。

野猿のメンバーが、とんねるず以外『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ系)の番組スタッフだったのは象徴的だった。スタッフがお遊び的に番組に出ることはほかにもあったが、ちゃんとした歌手としてデビュー、しかも歌がヒットして『NHK紅白歌合戦』に出場までしてしまうところがいかにもとんねるずだった。

NHKホール
NHKホール(写真=Kakidai/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

いま振り返っても信じがたい「ケチャップ事件」

また視聴者とのあいだの一線をなくしてしまったのもとんねるずだ。しかもそのやりかたが過激だった。

それを象徴するのが、1980年代おニャン子クラブのブームを生んだことで有名な『夕やけニャンニャン』(フジテレビ系)の企画「勝ち抜き腕相撲」だろう。

その名の通り、とんねるずが連れてきた腕相撲チャンピオンに応募者が挑戦するコーナー。だが本筋はそこではない。

腕相撲の勝負が決まった瞬間、それを合図にスタジオに来ている100人の観覧客が一斉に立ち上がり、スタジオで暴れ出す。スタジオ全体が一瞬でカオスとなる。

みな高校生から大学生くらいの男子たちだ。番組側は大量のスモークを噴射して静かにさせようとするが、そんなことはお構いなし。しまいにはタカさんに立ち向かっていく猛者も。タカさんも負けじと飛び蹴りを食らわせて応戦する。ノリさんは、ちょっと離れたところで「オーッと!」などと実況しながら、時々自分も参戦する。

この大騒ぎを毎週水曜日に繰り返していたのだから、いま振り返っても信じがたい。しかも生放送。素人の悪ノリはエスカレートして、タカさんのシャツに隠し持っていたケチャップをかけるという「ケチャップ事件」も勃発した。100%ガチではなくプロレス的な遊びの要素が多分にあるのだが、それでもいまのテレビではきっと無理だろう。