後輩芸人に何百万円もする腕時計を無理やり買わせる

このようにカリスマ的な人気を誇る一方で、とんねるずは当時の芸人としては珍しく高身長でスポーツマンということもあってアイドル的な人気も高かった。

タカさんとノリさんは東京の有名私立高校である帝京高校の同級生。タカさんが野球部でノリさんがサッカー部。ともに全国的に知られる強豪である。ラジオの深夜放送『オールナイトニッポン』などでも、その頃の友人とのエピソードがよくネタになっていた。

体育会のノリは、番組にも生かされた。『とんねるずのみなさんのおかげでした』の人気企画「男気ジャンケン」もそのひとつ。とんねるずと男性ゲストがジャンケンをして、勝った1人が自腹で全員分をおごる。ゲストに元プロ野球選手が出ることも多く、いかにも部活仲間の帰り道の一コマという雰囲気があった。

後輩芸人との絡みも、部活的な上下関係のノリがベースになっていることが多かった。同じく『みなさんのおかげでした』の「買う」シリーズ。後輩芸人に何百万円もする時計など高級品を半ば無理やり買わせてしまうこの企画も、体育会系のノリがあるからこそ成立するものだった。(※)

※編集部註:「買う」シリーズでの腕時計の最高額は、2013年5月に放送されたスギちゃんの648万円(ロレックス「デイトナレパード」)。

店頭に並んだロレックスの腕時計
写真=iStock.com/Erikona
※写真はイメージです

当時から批判もあったが、いまならこのあたりはコンプライアンスの問題が出てくる可能性は小さくない。むろん裏では暗黙の了解が存在していただろうが、現在ではそれだけでは許される理由になりにくい。そのあたりはとんねるず、そしてテレビが担った時代性でもある。

なぜ若者は彼らを熱狂的に支持したのか

とんねるずが感じさせる身近さは、地元愛の強さという点にもあった。

タカさんが成増、ノリさんが祖師ヶ谷大蔵と、いずれも東京の西側にある私鉄沿線の街の出身。とんねるずのファーストアルバムのタイトルもずばり「成増」だった。祖師ヶ谷大蔵で自転車屋を営む実家をモチーフにしたノリさんソロの「振り向けば自転車屋」などもそこに収められている。

ほかにドラマや映画にも出演し、マルチな活躍を繰り広げたとんねるず。「時代のカリスマ」にまでなった理由は、それまでの芸人にはなかったような、ずば抜けた“華”があったことだろう。見た目のカッコよさもあったが、至るところでテレビという世界を破壊して回る破天荒な姿に若者は解放感を覚え、憧れをかきたてられたのだ。

そんな2人は、生粋のテレビっ子だった。

タカさんが1961年、ノリさんが1962年生まれの同級生。テレビが本格的に普及し、物心ついた頃にはテレビが娯楽の王様だった世代だ。いわばテレビっ子第1世代であり、これほどテレビに憧れた世代もない。とんねるずのブレーン的存在である秋元康も1958年生まれで同世代だ。