歪な家族

離婚したものの、自身の母親(知多さんにとって父方の祖母)と折り合いが悪かった父親は、たびたび「遊びに来た」という“てい”で知多さんの家にやって来て、勝手に居続ける。当然のことながら、兄は父親に暴行を加え、それが激化すると、数週間か数カ月後には父親は実家へ帰る。この繰り返しだった。

同じ頃、兄のターゲットは母親に移行した。暴力ではなく、お金を無心するようになったのだ。

兄は名前が書ければ入れるような高校を卒業し、大学に進学。一人暮らしを始めたが、すぐに中退。新聞配達員として働き始める。だが兄は、自分が稼いだお金は使わなかった。服やゲームを買っていたが、その費用はすべて母親に出させた。

「兄は高校入学時に母から携帯電話を買い与えられましたが、兄が自分で携帯電話料金を払ったことはありません。でも僕は、携帯電話を自分のお金で購入し、携帯電話料金も自分で払っていましたし、高校のお昼代も僕は自分で払っていました。そのことに不平等を感じ、不満を持っていました」

兄と同じ高校に入学した知多さんは、入学前から興味があった器械体操部に入部。「部活を頑張ろう」と思っていたが、入部した器械体操部には先輩部員がおらず、1年のみ。しかもやる気がある部員はいない。部活に失望した知多さんは、アルバイトにのめり込んでいった。

やがて高校2年生になると、母親からは「高校くらいは卒業して」と言われたが、兄からは「中途半端はやめろ」と言われ、知多さんはコンビニバイトを優先し、中退。

18歳になる頃、母親から「一人暮らしをしない?」と持ちかけられる。

何がきっかけかはわからないが、当時兄は心療内科か精神科に通院していた。知多さんが知る限りで、強迫性障害、睡眠障害、統合失調症の診断がおり、障害者手帳を申請し、障害年金を受給していたようだ。

もともと兄の一人暮らしの部屋の家賃、光熱費、携帯電話料金は母親が持ち、その他の兄の生活費は兄が持つという約束での一人暮らしだった。だが、徐々に全て母親持ちということになっていったうえ、兄の病状が悪化し、一人暮らしができる状態ではなくなってきていたのだ。

少ない母親の収入はほとんど兄に使われ、母親と知多さんが暮らす賃貸アパートの家賃や光熱費も滞り始める。そうなると知多さんが払うより他なく、今度は母親が知多さんにお金の無心をするようになっていく。

お金を渡す男性
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結局、兄が実家に戻り、兄が一人暮らししていたアパートに知多さんが住むこととなった。それでも、母親から知多さんへの金の無心は続いた。