グルテンがメンタルにも悪いワケ

小麦や乳製品には、依存性があるのも問題です。グルテンフリーやカゼインフリーを実行しようとしても、「パンやパスタ、牛乳やヨーグルトがどうしてもやめられない」という人がいます。これは本人の意思が弱いのではなく、グルテンやカゼインのアミノ酸配列に問題があるのです。

たんぱく質は20種類のアミノ酸がつながってできています。グルテンとカゼインの代謝産物のアミノ酸の配列を見ると、モルヒネに似た部分があります。モルヒネはアヘンに含まれる最も作用の強い物質で、麻薬性鎮痛薬です。グルテンやカゼインを摂取すると、その代謝産物は脳の関所といわれる血液脳関門を通過してしまい、脳内にあるモルヒネなどが結合するレセプター(受容体)とくっついて、中毒症状を引き起こします。「もっと食べたい」「毎日食べたい」という状態になるわけです。

加えて、グルテンやカゼインの代謝物は正常な神経伝達物質を阻害します。心の安定に欠かせないセロトニンやGABAが出にくくなったり、神経を興奮させるノルアドレナリンを過剰に分泌させたりします。すると、記憶があいまいになる、情緒が不安定になる、うつになる、興奮しやすくなるなどの症状が出ます。

グルテンやカゼインが不調の原因になっていないか確認するためには、一度完全に抜いてみるのが有効です。グルテンやカゼインが含まれている食品を一切とらないようにするのです。効果を確かめるために、2週間は続けてください。約2週間で腸の粘膜が入れ替わるからです。グルテンとカゼインが腸にもたらす影響は非常に似ていますから、抜くときには同時に試すのが効果的です。2週間やめてみて、体の調子が良ければ、小麦や牛乳へのアレルギー反応が起きていた可能性もあります。多くの人が、グルテンフリーとカゼインフリーによってお肌の調子が良くなる、集中力が上がるといったうれしい変化を実感しています。

最初の2週間は徹底して抜く必要がありますが、その後に長く続ける場合には、完全なグルテンフリー、カゼインフリー生活が難しいこともあるでしょう。その場合は、摂取を控えめにするだけでも体の調子が良くなる人は多くいます。

【図表】グルテンを含む食べ物

グルテンフリーで体が劇的に変わった

グルテンに関する興味深い症例を一つご紹介しましょう。私のクリニックには、栄養療法による症状の改善を求めて多くの患者さんがいらっしゃいます。Aくんもその一人でした。小学校6年生のころから、音が気になる、集中できずに歩き回る、授業中におしゃべりしてしまうなどの行動が出ていました。病院を受診すると、ADHD(注意欠如・多動性障害)と診断され、薬を処方されました。薬を服用することで授業中はなんとか席に座っていられるという状態でした。

Aくんが毎日食べているものを確認すると、パンや乳製品が大好きとのことでした。検査をしたうえで、グルテンフリー、カゼインフリーの「食事療法」とサプリメントを利用した「栄養療法」を試してみることにしました。それまでは疲労感が強く、車で学校へ送っていかなければならないほどでしたが、1カ月ほどで元気になり、毎日、自分で学校へ行けるようになりました。3カ月後には、自分以外のことにも興味を持ち始め、友達とのもめごとも少なくなったそうです。そして、発達障害の薬もやめることができました。

グルテンで腸の粘膜がボロボロになると、食べ物の吸収が悪くなり、正常な成長や発達ができなくなります。Aくんもグルテンフリーとカゼインフリーを続けるうちに筋肉がついて背が伸びてきました。これは珍しいケースではありません。子どもに限らず、荒れてしまった腸の粘膜を治すことで、劇的な変化は誰にでも起こりえます。

Aくんは12歳ごろから急に症状が出始めたのですが、その前に副鼻腔炎になり、2週間ほど強い抗生剤を飲んでいました。このときに腸内の細菌バランスが崩れてしまい、小麦や牛乳に対してまったく抵抗できなくなった可能性が高いと私は考えています。

この症例にはおまけのエピソードがあります。あるとき、Aくんの祖父が骨折して入院したそうです。日ごろからイライラして怒鳴り散らすお年寄りだったので、嫁であるAくんの母は病院に「義父は小麦アレルギーです」と申告し、入院中はグルテンフリーの食事にしてもらいました。すると、退院するころには、ずいぶん穏やかになっていたそうです。退院後に再び表情が変わり、イライラしていたことがあったので「今日のお昼は何を食べたの」と聞くと、「エビフライを食べた」と答えたとの後日談もあります。ついイライラしてしまう人には、ぜひグルテンフリーを試してほしいと思います。