報道されるカスハラ被害は氷山の一角

カスハラの事例として、これまでに度々報道されているものとしては、コンビニエンスストアや衣料量販店などで発生した「店員への土下座強要」事件などが読者諸氏にもイメージがわきやすいだろう。

また最近も、「福祉施設で利用者が職員を長時間にわたって叱責したことで、職員の離職危機に繋がる」といったニュースや、「客による備品破壊や駐車場のルール違反などの迷惑行為に注意しても一向に止まず、カスハラに耐えかねて老舗銭湯が閉店」といった報道があるなど、被害ケースは増加する一方。しかもこれらの事例はあくまで全国報道になったものだけであるから、報道にのぼらないような小規模な事案まで含めると、被害総数はさらに多数にのぼることだろう。

ただ謝ることしかできない店員たち

元来わが国では企業間のサービス競争が激しく、顧客を大切にもてなして満足度を向上させる姿勢が重視され、それが企業や店舗のブランド価値向上にも寄与した。したがって諸外国ならチップを弾まねばならないレベルの手厚いサービスも、わが国の利用客にとっては当たり前レベルとなり、それが客側の過剰な期待へと繋がってしまっていることは否めない。

しかし、客側が自らの立場を「上」と見なし、過剰水準のサービスを悪気なく従業員に強いるとなれば、結果的に、対抗手段をもたない末端の労働者が給与に見合わない過剰労働を強いられることにつながってしまうのだ。

日本最大の産業別労働組合「UAゼンセン」が2017年、約5万人を対象に、職場での悪質クレームにまつわるアンケート調査をおこなったところ、およそ7割(70.1%)、実に3万5000人の労働者が「客から迷惑行為を受けたことがある」と回答した。しかも、迷惑行為を受けた店員のうち、約4割が「謝りつづけた」「何もできなかった」のだという。

カスハラの中には恐喝や脅迫、強要などの犯罪に該当するものもあるのだが、「上司に申告しても取り合ってくれなかった」などといったケースもあり、「お客様は神様」との誤解が不幸にも浸透してしまったことで、組織内で見過ごされることがこれまで多かったものと考えられる。