3つの型と5つの思考ステップ

ここまでは事例の共通性に注目することで、「気配り」の本質を掘り下げてみた。ここからは、事例の差異に注目することで、その広がり(パターンの多様性)を考えてみることにしよう。

事例の中に見出せる1つ目の差異は、相手の快や不快の感情の「発生時期」の違いである。気配り行動を起こした時点において、例1はすでに不快が発生しているが、例2~3はまだ発生していない。つまり、行動は未来の快・不快の感情の予期のうえに起こされているのである。

2つ目の差異は、目ざす「快適さの質」である。例1~2が相手の「不快さ(例2の場合は未発生だが)」を除去・軽減しようとするのに対し、例3は「快の創出」を目的としていることに気づく。

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図1:気配りの3つの型 /図2:気配りの思考ステップ

図1は、こうした観点から「気配り」を分類したものである。過去に発生した不快(-)を除去・軽減する「対処型」、将来発生する恐れのある不快(-)を除去・軽減する「予防型」、未来において快(+)を生み出す「創出型」の3つの型があり、(1)(2)(3)はその例であることが、おわかりいただけると思う。

この3つの型は、生活の中で多少なりとも必要なものであり、その意味では、どの型についても能力を持っていることが望ましい。言い換えれば「気配りができる」とは、この3つの型の実行に関わる能力が高いことを意味していることになる。では、その能力とはどのようなものか。

一般に「気配りのできる人」というと、優しいとか気立てがいいとか、性格的な特徴でとらえられることが多い。確かに生来の性格が、その実行に与える影響は無視できないだろう。

ただ、先に示した「対処」「予防」「創出」といった表現で「気配り」を再定義してみると、それが思考活動としての側面を強く持っていることが明確になってくる。大胆に言えば、「気配り力」とは思考力であり、頭がよくないと、絶対にできないのである。

とはいえ、ここでの「頭がよい」は、学校の勉強ができるのとは、別種のものである。正解もなければ、学ぶテキストもない。そんな現実の中での「頭のよさ」なのである。