人は、人から評価されて初めて有能な人材となる。そのために重要なのが、気配りに代表される対人能力。この力は訓練によって身につけることができる。ぜひ、自分の「気配り力」を診断し、「練習問題」で対人能力を高めてほしい。

[気配り力診断テストはこちら] http://president.jp/articles/-/8196

影響を見通す訓練が中心課題となる

「気配り力」を高めるには、どうすればいいのだろうか。

「気配り力」の強化は、理論的には、その構成要素である5つの思考力の強化によって実現されることになる。注意して物事を見ること。それがどんな影響を及ぼすか、先を見とおす訓練をすること。利他的な目標を設定してみること。問題解決アイデアをいろいろ考えてみること。言い訳せず動くよう、自分を説得すること。そうした思考経験を地道に重ねていけば、基本的には高められるはずである。

ただ、こういうふうに列挙されても、簡単に実行できるわけがない。実践的な強化を考えれば、優先順位をつけることが必要なのは当然である。そこでここでは、「気配り力」を高めるための中心的な課題(全体への波及効果の大きい課題)は何か、示しておくことにしたい。

「気配り力」を高めるうえで、中心的な強化課題となるのは、「影響判断(推測と予測)」の部分である。

その理由の第1は、それが「気配りプロセス」の上流工程にあるからだ。ここで気づきがないと、当然ながらその先で何かが生まれてくることはありえない。

理由の第2は、思考としての難度が高く、個人差が大きいからである。寒いとか暑いといったレベルならまだいい。しかし「こういう行動をしたら、人はどう感じるか」といった主観性の高い問題になると、人による差は非常に大きくなる。つまり「気配り力」の高低に大きな影響を与える可能性が高いということである。

そして第3の理由は、それが「自分自身が他人の不快の原因にならない」という、もっとも重要で、もっとも難しいテーマに直結しているからである。もし原因が自分以外であれば、仮に「気配り」ができなくても、関係が致命的に悪化することはない。しかし、もし自分が原因となっていることに気づかず、不快を振りまき続ければ、関係はたちどころに悪化することになる。そのリスクに直結するものだけに、その強化はきわめて大きな意味を持っているのである。

「影響判断」が非常にクリティカルな要素であることを述べてきたが、その能力強化はどうしたらよいだろうか。話を混乱させないために、物理的な「影響判断」に関しては、とりあえずここでは脇に置いておくことにしよう。「寒いと体が冷える」とか、「重い物を持つと腰が痛くなる」とか、そういった類いである。

ここで取り上げるのは、前段でも少し触れたが、主観性が高く、個人の特性や帰属する集団の特性によって、まったく反応(発生する快・不快の感情)が変わる可能性のある事象に関する「影響判断」である。よく「誰それの言葉にカチンときた」などという話を聞くが、その手の事象である。

こうした事象における影響判断力を高めるには、そもそも人間の感情というものがどのように発生するかを知っておく必要がある。図3はそれを簡単に示したものだが、これに基づいて説明してみたい。

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図3:感情の発生メカニズム

この図の眼目は「感情とは思考の産物である」という点にある。その人物が、どのようなスキーマ(その人物があらかじめ持っているものの見方や考え方)に基づき、その事象をどのように解釈したかで、発生する感情は決まってくるということである。

たとえば「店員は客に対して礼儀正しくあるべき」というスキーマを持つ人にとって、店に入ったとき、店員が挨拶をしなければ、それは不快感(怒り)を生み出すものとなる。その行動を、自分に対する「悪意」として、その人物が解釈するからである。

あるいは「店は快適であるべき」というスキーマを持っている人ならば、店内が雑然としていることや、清掃が行き届いていないことも、かなりの不快感を生むものとなる。その事象を、その店のホスピタリティの低さ(最終的には自分に対する敬意の低さ)と解釈するからである。

一方、こうしたスキーマを持たない人においては、これらの事象は、特段の感情を生み出すものとはならない。気に入った商品があるかどうかとか、値段が高いか安いかとか、そちらのほうが圧倒的に問題だったりするのである。