親御さんと二人三脚で弱音、本音を吐ける場作りを
親はそれぞれの理想の子ども像を持っている。発達障害の子どもたちはその像と少し違う。そこで親たちは、焦り、苛立つ。
「おこがましいかもしれませんが、親御さんの子どもに対するとらえ方、考え方を少しだけ変えてもらうこと。平均点を目指して子どもに頑張らせるというのはやめたほうがいいですと。苦手な分野は絶対に残る。それでも困らないようにしましょう、今の子どもさんをそのまま認めてあげましょうと。得意分野を伸ばしてあげるという視点が大切だと思うんです」
前垣の説明に親たちもある程度は理解してくれる。
「分かりましたとおっしゃっても気持ちは違う。親御さんも一生懸命なんです。あんまり頑張りすぎないようにしなければならない。できていますよねって、認めてあげないと破綻してしまう。弱音、本音を吐ける場を作るのもぼくたちの仕事だと考えています」
親と会話をしながら、最適の道を見つけていくしかない。例えば、ADHDの子どもは我慢することが苦手な傾向がある。
「すぐに結果が出るゲームに特にはまりやすく、際限なくやってしまう。そこでどのように時間制限するか。例えば1日3時間とか親子で決めてもらう。1日守ることができればシールを1つ貼る。シールが5つ貯まったら、土日はもう1時間できるようにする。ご褒美を決めて、頑張ってもらう」
するとある親が、とても1週間なんて待てません。今がすべてなんです、と言ってきた。そこで約束の1日3時間を守ることができれば、その場で15分延長することにした。
「目の前にご褒美があれば頑張れたそうです。その子に合ったやり方があるはず。親御さんと一緒に工夫して作戦を考えていく」
ぼくも日々学ばせてもらっているんですと笑う。
得意分野で世の中を渡っていけるというのが理想
前垣たちが発達障害の啓蒙活動に力を入れているのは、受け入れ体制が大切だからだ。
「義務教育の間は、学校の先生も特性のある子どもを分かっており、サポートする制度がある。ところが社会は違う。一般企業の目的は当然のことながら営利ですよね。上司は部下に対して業績を期待し、そうでない場合は指導をする。できない場合、さらに厳しく指導する。
この繰り返しになってしまう。学童期は比較的軽いと思われていた特性が、職場では馴染めない。仕事ができないという烙印を押されてしまう。大人になってから発達障害と診断される方は、小児期から恐らく軽い兆候があり、それが悪化したと思われます」
前垣が理想とするのは、それぞれの特性を生かした社会とすることだ。鳥取県は人口最小県であり、超高齢化社会である。これまで以上に一人ひとりの特性を大切にしなければ、社会自体が立ちゆかなくなる。それは鳥取県だけでなく日本の未来の姿である。
「彼ら、彼女たちは全部できないわけじゃない。ここはすごくできる、でもここは苦手、みたいな感じなんです。得意分野で世の中を渡っていけるというのが理想ですよね」
まさに「この子らを世の光に」である――。
1962年兵庫県生まれ。鳥取大学医学部卒業後、とりだい病院に入局。文部省在外研究員として、97年から1年間、米国クリーブランドクリニックに派遣。2014年、鳥取大学医学部脳神経小児科教授に就任。専門領域は小児神経全般、急性脳症の早期診断と脳波解析、神経生理。