現役世代の働き手が医療・介護に吸い込まれていく
【アトキンソン】もう1つの問題点は、平均年齢の上昇です。人間は高齢化することで消費意欲が減ります。つまり、「個人の消費額が減る」ということです。
先進国では、50歳前後になると、どんなに所得が増えても支出が減ります。日本人の平均年齢が1965年頃のような29歳程度であれば、人口が横ばいであっても個人消費は増えていきます。
しかし、現在の日本人の平均年齢は49.7歳です。たとえ総人口が横ばいだったとしても、しばらくするとお金を使わない世代が増えて個人消費は減っていくはずです。
つまり、「消費者の数」が減っていくだけではなく、平均年齢が上昇することで「1人あたりの消費金額」が下がっていくという問題もある。いまの日本が置かれている状況は、アゲインストなことばかりです。
【古屋】私が労働市場の観点から高齢化について懸念しているのは、アトキンソンさんがおっしゃったように、医療や介護が非常に労働集約的であるということです。このままでは乏しい現役世代の働き手がブラックホールのようにどんどん医療・介護に吸い込まれて、日本は他の分野にまわす人手がなくなってしまうかもしれない。イノベーションを起こす人材なんて夢のまた夢になってしまうかもしれない。
そもそも「設備投資を導入できる人材」がいないと、生産性を上げるための設備投資もできないわけですから。そういう悪循環に陥ってしまってからでは遅いんです。
私は医療・介護を含めた生活維持サービスの生産性の改善が喫緊の課題だと考えています。日本全体で見れば、製造業の生産性は、実は他の先進国と遜色ない水準で比較的順調に向上しています。一方、サービス産業、特に中小企業の生産性はここ20年くらいでまったく上がっていない。
ただ、こうしたサービス産業が私たちの社会生活を支えているわけですから、非常に危険な状態といえるでしょう。ここに現役世代の労働者がどんどん吸い込まれる状況になるのは絶対に避けなければいけません。
「コンビニの24時間営業は必要」と考えている人は3割
【古屋】私たちリクルートワークス研究所で今後の労働市場をシミュレーションしたところ、2030年に340万人、2040年に1100万人の働き手が不足するという日本の未来が浮かび上がってきました。人手不足の問題は、これからが本番なんです。
【アトキンソン】不足するかどうかは、現在の産業構造を維持するのか、しないのかということも判断基準になると思います。極めて非効率で生産性の悪い現在の産業構造を温存したままやっていこうとすると、1100万人の人手不足は現実になるかもしれません。しかし、産業構造を変えることができれば、結果は異なるでしょう。
【古屋】1100万人も働き手が足りない社会というのはもはや生活が維持できませんので、絶対に変えていかなくてはいけません。産業構造の問題も大きい。また、もっと小さなことからも考えられます。アトキンソンさんもご著書の中で指摘されているように、日本には「本当にそれは必要なの?」と思うようなサービスもたくさんあります。例えばコンビニの24時間営業が必要と言っている人は、私たちの調査でじつは3割しかいないことがわかってきました。使っている外食店がセルフサービスを導入したら「利用をやめる」と言った人もたった9%しかいません。消費者がそれほど価値を感じてないものがたくさんあるということです。
【アトキンソン】日本の得意分野ですよ。ただ単に、経済合理性の議論ができないから精神性の話に置き換えているだけです。私はいつも不思議に思っているのですが、日本はそういうのを検証しないじゃないですか。エビデンスベースになってないんです。
【古屋】人手が足りてないにもかかわらず、ムダな仕事をつくりすぎ・残しすぎですよね。
【アトキンソン】いまの産業構造を残そうとすると、地方だと安い労働力として外国人を入れるという議論になってしまうのですが、経済合理性のない会社を存続させるために大量の移民を迎えるということであれば、私は大反対です。