しかし、旧宮家養子縁組プランは違う。それが制度化されると、国民の血筋となった旧宮家系子孫男性が今後、即位するかもしれないという危ない話だ。

「旧宮家系」は皇統に含まれるのか

政府は「皇統」という概念を広くとらえて、旧宮家系という“国民の血筋”も皇統に含まれる、と拡大的に解釈しているようだ。しかし、先の歴史上の事例からして、そのまま素直に受け入れにくい。

法学的にも皇統について、単に生物的・家系的な血統を意味するだけでなく、現に「皇族(という身分の)範囲内にある」という規範的な要件を外すべきでないとの指摘がある(里見岸雄氏『天皇法の研究』)。

とくに注意すべきは、旧宮家系子孫の当事者自身が以下のように述べている事実だ。

「『皇統』とは法律用語で、『皇統に属する』とは『皇統譜に記載がある』という意味と同一で、すなわち皇族であることと同義語である。……

歴代天皇の男系男子には『皇統に属する男系の男子』と『皇統に属さない男系の男子』の2種類があり、皇位継承権を持つ現職(原文のママ)の皇族は前者に、また清和源氏・桓武平氏そして私のような旧皇族の子孫などは後者に該当する」(竹田恒泰氏『伝統と革新』創刊号)

「皇統に属さない男系の男子」という表現は国語としていささか奇妙だ。しかし、“皇統”という語を拡大解釈的にではなく、規範的要件を踏まえて使おうとしていることは、理解できる。

だが「皇統に属さない」ならば、そのような人物が婚姻を介さないで皇籍を取得したり、その子孫が即位する可能性を認めたりすることは、決して許容できないだろう。それは皇統の断絶、王朝交替に直結するからだ。

現在の皇室には、これまでの皇統を受け継いでおられる内親王・女王方が、現におられる。ならば、そうした方々に婚姻後も皇室にとどまっていただき、さらに将来の皇位継承にも貢献いただけるように、制度を整えることが先決のはずだ。

羽毛田元宮内庁長官の“危機感”

ここで目を向ける必要があるのは、羽毛田信吾元宮内庁長官が3月15日に行った講演(毎日・世論フォーラム、毎日新聞社主催)の中で、「女系天皇」の可能性に言及していた事実だ(毎日新聞デジタル3月15日18時30分配信)。

「羽毛田氏は、安定的な皇位継承に向けた制度改正が進まない現状に『改正に向かって具体的な動きを起こすことは待ったなしだ』という強い危機感を示した」
「『皇室に女性がいなくなれば、女系に広げる選択肢はそもそも成り立たなくなる』として『今のうちから十分な論議を尽くして取りかかるべきだ』と国民的な議論を早急に進めるよう呼びかけた」という。

宮内庁長官経験者が、政治的な取り組みが進んでいる最中に、ここまで踏み込んだ発言をすることは、おそらく異例だろう。それほど羽毛田氏の「危機感」は深いといえる。