矛先は「建築界のドン」安藤忠雄氏にも

今回の「木造リング」には、日本の伝統的な工法である「貫構造」を模したものが採用されている。「貫構造」とは、釘やボルトや金物を一切使わず、柱と梁の接合部をくさびで固めて木造構築物を支えるのだという。

だが、耐震性への不安から今ではほとんど使われていない。そうした理由から実施設計と工事を請け負ったゼネコン3社は、工期に間に合わないなどの理由で「貫工法」で作ることを諦め、金物で補強する手段を選んだという。

「こうした専門知識のないままに、大阪府知事や大阪市長は『貫構造』でつくるかのような解説をしていましたが、本来はプロデューサーである藤本さん自身が正確な説明をしなくてはならない。

それなのに、彼には説明責任者としての自覚が全くない。そもそも自分がなぜプロデューサーに指名されたか分からないというのです。それは藤本さんから直接聞きました」(山本氏)

さらに批判は、建築界のドンといわれる人間に向く。

「19年12月に、建築家の安藤忠雄さんをはじめとする13人のシニア・アドバイザーが選ばれています。(中略)

安藤さんは同年10月に万博のロゴ選定委員会の座長になっており、翌年1月には『万博の桜2025』実行委員長に就任。次々にインパクトのある提案を打ち出しました」

IRは「本当に大阪市民へ還元されるのでしょうか」

「中でも最も大きなインパクトがあったのが、プロデューサーに指名された藤本さんによる『木造リング』だった。それはあまりにも唐突な提案でした。すべての混乱はここから始まったといっていいと思います。(中略)

アドバイザーである安藤さんの責任は、万博のために働いている建築やデザイナー、様々な専門家たちが、その技量を十分に発揮できる環境を整えることではないでしょうか。

それが今や、逆に彼等や万博協会の信用を貶めるようなことになっています。安藤さん自らの説明がないからです。安藤さんはその責任を感じるべきだと思いますが、今は全く公の場に現れません。安藤さんに言いたいことは、その責任から逃げてはいけないということです」

大阪・関西万博の開幕まで1年となるのを前に、会場のシンボルとして建設中の木造の大屋根(リング)の建設現場が報道陣に公開された。一周2キロに対して全体の約8割が完成し、工事は順調=2024年4月8日、大阪市此花区
写真=時事通信フォト
大阪・関西万博の開幕まで1年となるのを前に、会場のシンボルとして建設中の木造の大屋根(リング)の建設現場が報道陣に公開された。一周2キロに対して全体の約8割が完成し、工事は順調=2024年4月8日、大阪市此花区

舌鋒は吉村知事にも向く。

「万博の会場は、大阪市民が生活する街から遠く離れた場所、大阪湾のゴミ処分場の跡地です。そこに会場をつくると決めた政策自体に問題があります。

大阪の都市計画、未来へのビジョンがないまま、短期的な金銭的利益のために万博を利用するのは間違っている。万博用地の後利用として、IRを計画した方が合理的だと考える人もいるかも知れませんが、そこで生まれた利益は、本当に大阪市民へ還元されるのでしょうか。ほとんど海外のカジノ業者の利益になるだけではないでしょうか。(中略)」