マグロの価格は13年で倍以上…仕入れ価格が高騰
すし店の経営を圧迫する2つめの大きな要因が、主要ネタである魚介類の仕入れ価格の高騰です。中でも深刻なのがマグロの価格高騰。東京の卸売市場におけるマグロの平均入札価格は、2010年には1kgあたり1500円前後でしたが、2023年にはなんと4000円を超える価格になっています。
この背景には、マグロの需要増加と生産国での不漁や資源保護対策による漁獲量の減少があります。コロナ禍で輸入マグロの入荷が滞ったことも拍車をかけました。特に高級銘柄のマグロとなると、1キロ5000円を超えるケースもよくあり、すし店経営に大きな負担となっています。
かつてマグロはコスパの良いネタとされていましたが、もはや“ぜいたく品”といっても過言ではありません。マグロ以外でも、サーモンやウニなどの人気ネタの価格は次々と上昇しています。サーモンは主要産地でのコスト高からくる輸入価格の値上げ、ウニはロシア産の禁輸措置の影響を受けており、経営にさらなる負荷をかけているわけです。
さらにエネルギーコストの上昇に伴い、運送コストや冷蔵コスト、包装資材価格の上昇もあり、すべてのコストが吹き上がっているのが実情です。そのため、ネタの質を下げざるを得ないケースが出始めています。
こうした状況下で、ネタの質を保ちながらも価格を抑えるのは至難の業といえるほどになってしまったのです。魚価高騰はすし業界を直撃し、廃業の危機に追い込む大きな要因となっています。
大手チェーンが質の高いサービスを提供するようになった
3つ目が競争の激化。すし店を取り巻く競争環境が一層激化しています。その最大の原因は、大手回転ずしチェーン店の急激な出店ラッシュにあります。国内店舗数では、1位のスシロー626店(24年5月時点)、2位はま寿司596店(24年2月時点)、3位くら寿司548店(24年5月時点)となっており、立地の良い商業エリアを着実に囲い込んできました。
くら寿司、かっぱ寿司、スシローといった大手チェーンは、もはや単なる低価格路線ではありません。鮮度維持の徹底や調理人の技術向上、本まぐろやいくらなど上質なネタの提供、店舗環境の改善など、質の高いサービスを打ち出してきたのです。
一方で、価格面での優位性は健在です。大量発注による仕入れコストの削減や、合理化された店舗オペレーションにより、コストを抑え価格競争力を保っています。品質とサービスの両面で、個人経営の中小すし店との差別化が難しくなってきました。
もっとも、そもそもすしの個人商店は家族の行きやすい場所ではなく、大手チェーン店と個人商店は最初から競合していないという見方もあります。しかしながら、「すしを食べるときの選択肢」が大手チェーン店によって増えたことにより、一定の影響はあったと考えるのが妥当でしょう。