近年、海外では日本のアニメに加え漫画の売り上げが、特に北米で飛躍的に増加している。背景にあるのはどのような事情か、30年以上にわたり日本の漫画やアニメ作品を英訳してきた翻訳者で、欧米やアジアのオタク事情やビジネスに詳しい兼光ダニエル真に本誌・澤田知洋が聞いた。
――北米市場で、コロナ禍を機に『鬼滅の刃』など漫画の売り上げが急激に伸びている。これはなぜか?
コロナ禍の巣ごもり需要を背景にネットフリックスなど配信サイトでアニメ視聴が増加し、その原作を買い求める動きが定着しつつあることが大きい。米メディアICv2が種々の統計を横断的に調査したところ、2022年にコミック市場で売られた作品の45%が日本の漫画だった。市場の急成長に日本の作品が大きく寄与している計算で、驚異的だ。
北米でこれほど外国のポップカルチャーがオタク層以外にも広まった例はかつてないのではないだろうか。ニューヨークのマンハッタンで昨年、『スパイ×ファミリー』の劇場版アニメのポスターが街角のさまざまな場所に大々的に掲示されているのを目撃して、一般層への広まりも実感しているところだ。もともと北米である程度市民権を得ていたが、今は日本アニメ・漫画の「波」がよりいっそう高まっている状態だとも思う。
ただこれは一部で言われているように、いわゆる「アメコミ」から日本の漫画に読者が流れているわけではないと思われる。アメコミは一般的にイメージされるDCコミックスやマーベル・コミックスなどスーパーヒーローもの以外の作品のほうが実は流通量は多く、また日本の漫画と違い書店以外の販路もある。それら全体の売り上げが著しく落ちているわけではない。
同様に、最近日本や北米でも勢いのある韓国発のウェブ漫画の形式「ウェブトゥーン」にしても日本の漫画読者を奪っているというより、紙の漫画を読む習慣のない、スマートフォンでの縦読みに慣れた層をどんどん取り込んでいると見ている。
アメコミやウェブトゥーンとともに日本の漫画を楽しむ人も多いだろうが、基本的には一種の棲み分けが成立していると思う。とはいえ、ハリウッドでアメコミの実写化作品がヒットしても、それが原作漫画の売り上げに転化していないのは確かだ。