トヨタは中国の「テンセント」と提携

今回、シャオミはEVへの参入によって「OS・プラットフォーム・エコシステムを支配する」戦略を打ち出したと言える。中国では通信大手のファーウェイ(華為技術/Huawei Technologies)も、生活サービス全般のOSやエコシステムからEV事業を攻略しようとしている。

また、テンセント(騰訊控股/Tencent)は、北京モーターショー2024でトヨタ自動車とのデジタルエコシステムに関する戦略的協力を発表した。トヨタはテンセントのAI技術、クラウドサービス、デジタルエコシステムといった強みを、中国事業に展開するという。

中国では「ハードとしてのEVには、数年後には利益は残らない」と言われている。OSやプラットフォーム、重要部品などにしか収益は残らないということだ。スマートフォンと同じように、ハードで収益化や量産化を実現できるメーカーは少数となり、OSやプラットフォーム、エコシステム全体の競争となる。

そうなったときに、OSやプラットフォームを提供できるのはグレーター・チャイナ(中国勢力圏)で2~3社、グレーター・アメリカ(アメリカ勢力圏)で2~3社が現実的だろう。日本から1~2社が出てくる可能性もあるが、「すべての産業の秩序と領域を定義し直す戦い」にどの程度、割って入っていけるのか。

トヨタのディーラー
写真=iStock.com/rep0rter
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日本の自動車メーカーは生き残れるか

ただ、日本の自動車メーカーがほとんど生き残れないということではない。国際エネルギー機関(IEA)が4月23日に発表したEVの最新の市場動向に関する報告書では、2035年に世界の新車販売の5割超をEVが占めると予測されている。

つまり10年後でも5割程度はガソリン車やHV車が売れるということだ。エコシステムを支配できなくとも、「端末・ハードの提供」や「重要部品」で生き残るメーカーはあるだろう。またEVには、Appleが参入を断念した原因だと言われる自動運転の実用化などの課題もある。

それでも、将来的に世界で新車販売の5割を超えるとされるEVの世界で、OS・プラットフォーム・エコシステムの覇権をかけた戦いがすでに始まっている。シャオミのEV参入はその文脈で読み解くべきだ。

そして「すべての産業の秩序と領域を定義し直す戦い」と書いたが、自動車は産業連関が大きな産業だ。EVのインパクトは自動車業界だけでなく、キャリア・通信業界、電気・電子業界、IT業界、フード・デリバリー業界、エンターテインメント業界にまで波及していくと予想される。

(構成=野上勇人)
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