「ハードとしての車」だけでは生き残れない

2023年1月の「CES 2023」(アメリカで開催される世界最大のテクノロジー見本市)では、EVバッテリーステーションを展示する企業も多く、ベトナム発のEVメーカー「VINFAST」(ヴィンファスト)が大きな注目を集めるなど、新興EVメーカーの展開が目立った。

ベトナムの新興メーカー「VINFAST」のEV(2023年1月、アメリカ)
筆者撮影
ベトナムの新興メーカー「VINFAST」のEV(2023年1月、アメリカ)

VINFASTが多数の車種を展示しているのを見て、筆者は日本の自動車メーカーがEVを量産化して対抗するのは難しくなるだろうと感じた。値下げ競争になるのは必然だからだ。そして同時に、VINFASTも市場で勝ち残るのは難しいだろうと感じた。それは「ハードとしての車」しか作ろうとしていないように見えたからだ。

VINFASTは2023年3月2日にアメリカでEVの販売を開始し、8月15日にはナスダック市場に上場した。8月末にはその時点の自動車業界で世界3位となる時価総額28兆円となったが、9月までに2500億円超の最終赤字となり株価は急落した。その後、2024年4月10日時点で時価総額は1.5兆円に落ち着いている。

VINFASTのEVは、世界最大のテクノロジー見本市「CES 2023」でも注目を集めた(2023年1月、アメリカ)
筆者撮影
VINFASTのEVは、世界最大のテクノロジー見本市「CES 2023」でも注目を集めた(2023年1月、アメリカ)

スマートフォンでも、黎明期にハードを展開するメーカーが乱立した。しかしその多くが市場から退場した。同じことがEVにも起こると予想される。ハードだけで収益化や量産化を実現できるメーカーは、少数となるのだ。

「商品のシェア争い」から「エコシステムの戦い」へ

ハードだけのメーカーが生き残りにくいのはなぜか。

スマートフォン黎明期、AppleのiPhoneに市場を席巻され、業績が悪化したNokiaというメーカーがある。その後、業態を変えることで復活を果たしたのだが、当時の会長が上梓した『NOKIA復活の軌跡』(2019年、解説章は筆者が担当)には、Nokia全社に向けたCEOからのメッセージが書かれている。

「競合他社はデバイスで私たちの市場シェアを奪っているのではありません。エコシステム全体で私たちの市場シェアを奪っているのです」

iPhoneが発売されてNokiaの商品は市場シェアを奪われたけれども、AppleはiPhoneというデバイスだけでNokiaの市場を奪っているのではない。Appleはユーザーへの生活サービス全般、すなわちエコシステム全体でNokiaの市場シェアを奪っている、というのだ。

初期はスマートフォンという「商品」で競い合っていたが、やがてOSなどの「プラットフォーム」の競争に変わり、最終的にハード・ソフト・生活サービス全般を含めた「エコシステム」の競争となった。