「わかる」はスキーマに依存する

ここでは言語の例でお話ししましたが、私たちはあらゆる物事についてスキーマを持ち、それを当たり前のものとして考えています。

言い換えれば、ある人の「わかる」「わかった」は、あくまで「その人のスキーマ」を通してのものであるということ。

あなたが意図した通りに伝わっているか、正しく理解されているかどうかは、実際のところ、「あなたとは関係のないところ」で決まってしまう、と言ってもいいかもしれません。

なぜなら、相手が「わかった」かどうかはその人がどういうスキーマを持ってあなたの話を聞いているかに大きく依存してしまうからです。

「言ってもわかってもらえないのは、言い方のせいではない」「伝わらないのは、伝え方のせいではない」というのは、こういうことなのです。

「わかった!」を鵜吞みにしてはいけない

ですから、相手が「わかった!」という態度を示していたとしても、それを鵜呑みにしてはいけません。

なぜなら、自分が期待したように理解されているかどうかは、定かではないからです。相手のスキーマに沿って独自に解釈されている可能性は大いにあります。

今井むつみ『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか? 認知科学が教えるコミュニケーションの本質と解決策』(日経BP)
今井むつみ『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか? 認知科学が教えるコミュニケーションの本質と解決策』(日経BP)

翻って考えると、自分が「わかった!」と思ったときにも注意が必要です。本当にあなたは、相手が意図しているように理解できているのでしょうか……?

人は皆、自分の知識の枠組みであるスキーマを持っています。

つまりそれは、「自分なりの理屈を持っている」ということです。人の話はすべて、自分のスキーマというフィルターを通して理解されます。そういった意味で、スキーマは「思い込みの塊」でもあります。

相手に正しく理解してもらうことは、相手の思い込みの塊と対峙していくことです。そして相手を正しく理解することは、自分が持っている思い込みに気がつくことでもあります。これがいかに難しいことかは、想像に難くないでしょう。

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