生まれたアイデアの芽を潰さない訓練
【山口】ヤッホーブルーイングは、企画自体のユニークさや、その企画を実現する行動力はもちろんなのですが、とても話題づくりがうまいなあと感じています。企画や広報の発想力を鍛えるノウハウなどがあるのですか?
【井手】たとえば、研修などで面白いアイデアを出す訓練をしている、といった明確な取り組みは特にないんですが、生まれたアイデアを芽のうちに潰さないような土壌はつくっています。
いろいろなプロジェクトは、基本的にチームで動かしています。そのチーム内での心理的安全性が担保されるように徹底し、どんなアイデアも否定しないで聞くことを大切にしています。
「こんなこと言って、つまらないと思われないかな」と臆していたら、育つかもしれないアイデアの芽を摘んでしまいかねません。誰のどんな意見もフラットに聞くというところで、訓練していると言えば、そうかもしれません。
それに、チャレンジを推奨する社風はありますね。「失敗は成功へのプロセスだ」として許容し合う文化を、意識してつくってきました。
1回で終わった「お父さんレンタル」
【山口】なるほど。ではそのチャレンジが、あまりうまくいかなかった事例というのもあるわけですか?
【井手】そうですね。もう4年くらい前になると思いますが、父の日に合わせて「お父さんレンタル」というのをやってみて、大ゴケしたことはあります。
【山口】面白そうな企画ですね。
【井手】うちは父の日が1年の内でもいちばんのかき入れどきなので、その時期はオリジナルのセットやパッケージなど工夫を凝らします。その年は、「ヤッホーブルーイングの中にいる“お父さん社員”を、貸し出してみてはどうか」というアイデアが出てきたんです。なんだか面白いし、予算も大してかからないから、やってみようということになりました。
それで、若いお父さんから、それなりに貫禄のあるお父さんまで4人のスタッフを待機させていたのですが、申し込みはほとんどありませんでした。ファンの間ではばかばかしさが話題になって楽しんでもらえたのですが、企画としてはニーズがないことがわかって、その年限りでした。