本当に「リニア大推進論者」だったのか?
静岡県の川勝平太知事(4月10日に退職届を提出)とJR東海の対立という構図で見られることが多かったリニア中央新幹線・静岡工区の問題だが、川勝氏の突然の辞任により、この問題は新たな局面を迎えることになる。
川勝氏はこれまで自らを「リニアの大推進論者」と称してきた。4月10日の記者会見でも、こう発言している。
「(リニア中央新幹線は)1970年代からやってきて、日本の技術の最先端というかエキスが入っている。それに懸けて人生を終えた、後輩に引き継いでいった人たちがいる。私はその思いも知っているし、推進派から外れたことはない」
だが、実際には、大井川の水資源や南アルプスの環境保護などを理由に、知事として建設は認められないとの立場を示してきた。
県民の受益を一番に考えることは県知事としては当然のことだろう。県民の生活に直結する水資源を守るため、大井川の水量維持に心を砕き、国民の財産とも言える南アルプスの環境保護を訴えるのは、知事の責務として極めて真っ当なことである。
しかしながら、川勝氏がリニア中央新幹線に対して要求した条件は、およそリニア推進派とは思えず、次々と論点を変えながら、建設のハードルを上げ続けていったように見える。
たしかに川勝氏は、2022年に沿線の9都府県から成る「リニア中央新幹線建設促進期成同盟会」(期成同盟会)に加入しており、リニアの早期開業を目指すという立場にある。期成同盟会のほかの知事たちは川勝氏が着工へ前向きに変化することを期待して迎え入れたわけだが、その後も、静岡県での工事は進められずにいる。
リニア着工までこぎ着けなければ「区切り」ではない
川勝氏は辞任の理由として「リニア問題でひと区切りついた」ことを挙げており、県の新規採用職員に対する訓示の中での「職業差別」と指摘される発言については理由にならないとしている。
しかしながら、リニア問題は開業延期が決定しただけだ。川勝氏が本当にリニア推進論者なら、水問題の解決、環境を守りつつ、リニア中央新幹線の静岡工区を着工まで導く妥協点を見つけることが「区切り」ではないだろうか?
今回の辞任を受けて、期成同盟会会長を務める愛知県の大村秀章知事は、川勝氏に対してこう話した。
「2027年開業を断念させたことが自分の成果だと受け取られるような発言。極めて遺憾で極めて残念。我々をたばかった(だました)のか。だいぶ抑えて言っているが、もっと腹が立っている」
川勝氏のこれまでの言動を考えれば、恨み言の一つも言いたくなるのだろう。