衛星は「低軌道上にたくさん並べる」がトレンドに

世界的に見ると、地球から近い宇宙に関してはほとんどが民間のフィールドになっている。

これまでは大型の人工衛星を地球から3万6000キロ離れた静止軌道に打ち上げるビジネスが主流だったが、今では地球低軌道(LEO=low Earth orbit)という地球から数百キロのところに小さな人工衛星をたくさん並べるのがトレンドになってきている。低軌道であれば画像データが高精細になるし、データが届くのも早くなる。

では、これまでなぜ遠い静止軌道に人工衛星を置いていたのかというと、1基で地球全体をカバーできたからだ。しかし、低軌道に人工衛星を置いた場合は1基ではカバーできないため、数多くの人工衛星を低軌道に置く。これを『衛星コンステレーション(星座、点でつらなるもの)』と呼ぶ。コンステレーションを作るには小型の人工衛星をたくさん打ち上げなくてはならない。

ZEROはそのためのロケットで、ISTはその市場をとりに行こうとしている。

ISTは日本国内の公的機関や企業だけでなく、欧州とアジア各国をマーケットとして想定している。アジアでは自前でロケットを打ち上げられるのは中国、インドと後は北朝鮮くらいだ。そこで残る東南アジア諸国などに対して営業する。

スペースXは「打ち上げ費用を劇的に安くする」と宣言して、さまざまな挑戦を行っている。ISTも将来的には8億円以下を目指しており、世界的に見ても競争力のある打ち上げ価格を目指している。

舗装されていない砂利道を走っていくと…

ISTのもうひとつのメリットは射場がすぐそばにあること。その射場は立地、気候の両面で優れているため、発射の頻度を上げることができるという。

そこで、わたしは射場を見に行った。

大樹町の宇宙港「北海道スペースポート」はISTの本社から舗装されていない砂利道を10分くらい走った太平洋に面した場所だ。

車に乗りながら、わたしは考えた。

「ロケットや人工衛星のような精密機械を射場に運送するのに砂利道でいいのか。振動や揺れなどは機器に影響を与えないのか」

しかしよく考えたら、そもそも砂利道を走ったくらいで壊れてしまうロケットが宇宙空間へ行けるとは思えない。そんな華奢な作りのロケットが発射に耐えうるはずもない。

射場には打ち上げ本部となる建物と滑走路、舗装された発射台の敷地があった。新たに建設しているLC-1という人工衛星用ロケット発射場はISTだけで使うのではなく、他の民間企業も使うことができる。

射場「北海道スペースポート」
撮影=プレジデントオンライン編集部
IST本社から整備されていない砂利道を車で10分ほど進むと、「北海道スペースポート」が見えてくる