大統領選挙の年でなかったら…
――今年が選挙イヤーでなかったとしたら、バイデン大統領は買収に賛成したと思いますか。今回の一件は単にタイミングの問題なのでしょうか。
買収を支持したと思う。タイミングというより「政治の問題」だ。こと選挙イヤーとなると、政治の世界は様相が変わってくる。
――「鉄は国家なり」といわれますが、バイデン大統領の消極的な姿勢には安全保障上の理由も絡んでいるのでしょうか。
安全保障問題を考えるのは至極当然だが、日本は米国の強固な同盟国だ。日本製鉄による買収が安保上の問題を引き起こすなどとは考えられない。一般的に外国からの鉄鋼供給に頼りすぎることは問題だが、買い手は日本企業だ。日本が米国と軍事上の同盟を結んでいることを考えると、安保やハイテク技術の観点から、今回の買収が問題を招くとは思わない。
ジャパンバッシングの再来はありえない
――先ほど牛肉・オレンジの輸入自由化問題について話が出ましたが、1980年代、アメリカでは実際にジャパンバッシングの嵐が吹き荒れました。70年代から80年代にかけて日本車が米自動車業界を席巻したことや、日本市場の閉鎖性に対する反発などもありました。USスチールの買収で、ジャパンバッシングが再燃する可能性は?
ない。目下、アメリカの経済的脅威は中国だ。中国からの輸入品がアメリカの複数の業界に甚大な影響を及ぼしている。アメリカから見れば、中国の脅威が本当の意味での懸念だ。日本ではない。
確かに80年代はそうだったが、今や日本はアメリカの「仲間・相棒」だ。日米経済には相互補完性がある。日本とアメリカは互いを補い合う関係だ。半導体など、中国頼みでないサプライチェーン(供給網)を築くための同志だ。80年代の(ジャパンバッシングの)再来などありえない。