日本企業傘下に入ることでのレイオフを恐れている

――米鉄鋼大手クリーブランド・クリフスの2023年8月13日付プレスリリースによると、昨年、同社はUSスチールに買収案を提示し、却下されたそうです。しかし、全米鉄鋼労働組合(USW)からは強固な支持を得たと。なぜ、USWはクリーブランド・クリフスの買収案には賛成し、日本製鉄の買収には反対しているのでしょうか。その違いは?

USWとクリーブランド・クリフスの関係のほうが、日本製鉄との関係より強いのだろう。USWからすれば、買収後の労働者の処遇という点で、クリーブランド・クリフスのほうがUSWの期待に沿って(USスチールの労働者を守って)くれると感じたのではないか。

USWは、日本製鉄が将来、USスチールの労働者をレイオフ(永久解雇・リストラ)するのではないか、ダウンサイジングするのではないかと懸念している。もちろん、USWは日本製鉄から何らかの保証の言質は取っているだろうが、クリーブランド・クリフスによる買収案のほうがUSWにより大きな自信を与えてくれたのだろう。

日本企業のダブルスタンダード

――しかし、USWも、日本企業のほうがアメリカの企業よりも雇用を守ることはわかっているのではないでしょうか。

それはあくまでも国内の話だろう。日本企業が労働者に手厚いのは自国に限った話だ。国外では、はるかにドライな対応をする。日本メーカーは、アメリカでは労働者の味方とは言えない。日本の自動車メーカーは往々にして、親労働者・親労組でない(保守的な)州を生産地に選ぶ。日本企業がアメリカで雇用を守ってきたとは言えない。

――日本企業もダブルスタンダードだということですね。

そのとおりだ。非難するつもりはないがね。日本企業だけではない。このテーマについて研究を重ねているが、日本に限らず、企業というものは自国を一歩出ると、外国の労働者にはさほど配慮しなくなるものだ。

(後編へ続く)

スティーヴン・ヴォーゲル(Steven K. Vogel)
カリフォルニア大学バークレー校教授
政治経済学者。先進国、主に日本の政治経済が専門。プリンストン大学を卒業後、カリフォルニア大学バークレー校で博士号(政治学)を取得。ジャパン・タイムズの記者として東京で、フリージャーナリストとしてフランスで勤務した。著書に『Marketcraft: How Governments Make Markets Work』(『日本経済のマーケットデザイン』)などがある。
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