アカウント共有を知りながら「盗みを奨励」
HBOはこうした経緯を見守り、教訓を学んだ。テック系のブログサイト、テッククランチ(TechCrunch)によると、HBOの認識は「ストリーミング再生のためのアカウント共有はグレーゾーンである」らしい。
そこで彼らは戦略的曖昧さを容認することにした。まさかと思うかもしれないが、盗みを奨励したのである。HBOの経営陣は、あなた(およびあなたの家族や友人)が無許可のストリーミングを平気でやっていることをちゃんと知っている。だが彼らは、これから顧客になってくれるかもしれない人たちを罪人同然に扱うようなことはしない。現にHBOはウォータムと友人たちを番組に出演させている。
HBOのCEOリチャード・プレプラーは、著作権侵害を後押しするようなこの戦略について、「これは次世代の視聴者を獲得するためのすばらしいマーケティング手法だ」と誇らしげに語っている。パスワードの共有によって「HBOのブランドをより多くの人が知るようになり、大好きになってくれることを期待している」というのである。
インターネット上の発言では、プレプラーはこう付け加えている。「われわれのビジネスで重要なのは、できるだけ多くのファンを獲得することだ。製品、ブランド、番組をできるだけ多くの人の目に触れさせることによって、われわれはこの目的を達成しようとしている」。
競争相手も常識破りのHBOのこのアプローチに気づいており、ある程度まで追随している。たとえばネットフリックスのCEOリード・ヘイスティングスも「ネットフリックスをシェアするのは大歓迎だ。それは好ましいことであって、禁止したいことじゃない」と話している。
ただしネットフリックスの場合、アカウントの使用は一度に1台のデバイスに限られる。
「将来の優良顧客候補」を盗人扱いしたくない
HBOとネットフリックスにとって、戦略の決め手となるのはウォータムのような若い視聴者である。彼らは悪いことをしていると(ちょっとだけ)知ってはいる。
プレプラーもヘイスティングスも、こうした若い視聴者が、正規のサブスクリプション契約をたとえ今はしていなくても、とにかく番組や作品に熱中し病みつきになってくれることを願っている。そうなったら、彼らが長じて給料をもらうようになった暁には正規料金を払うようになってくれるのではないか、違法行為から足を洗ってくれるのではないか、と期待しているわけだ。
この長期戦略の成否はまだはっきりしない。プレプラーもヘイスティングスも、「知的財産は財産である」という所有権に関する自分たちの主張に若い視聴者が納得してくれることを期待している。そのためにコンテンツ盗みに寛容な姿勢で臨んでいる──すくなくとも今のところは。