放送は1世帯1契約だが…

次に、「ネット受信料」を、「放送」と同じように世帯単位で徴収するのか。それとも、個人で受信契約するのか、という基本的な問題がある。「放送」と同じならば1世帯で1契約となるが、「ネット」は家族そろってテレビの前に座って見るという視聴形態が想定されない以上、世帯単位を推す積極的理由に欠ける。

仮に世帯単位となった場合、利用する家族を特定しなければならないし、利用端末を1台ずつ登録しなければならなくなる。言い換えると、IDをいくつ発行するのか、それとも1つのIDを共用するのか。また、1IDあたり何台までの端末を使えるようにするのか、などを詰めなければならない。そうでないと、受信契約していない第三者が自在に視聴できてしまう懸念が生じる。

では、個人単位となればスムーズに運ぶかというと、そう単純ではない。新たに家族がネット視聴したくなった時に、別途、個人契約を結ばなければならないのであれば、1世帯で複数契約することになり、「放送」の1世帯1契約に比べて不合理な格差が生じる。

家電量販店のテレビ売り場で立ち尽くす女性
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いつまで「特殊な負担金」と言い続けるのか

一方、既に受信料を払っている世帯には追加徴収しないのが原則となる(現行制度では「NHKプラス」を見ようとすれば受信料を払わねばならない)が、「NHKプラス」は、1世帯1IDを発行し5台の端末が利用できるように設定されている。このため、家族ではない第三者が利用しても追跡することは難しい。「ネット受信料」が導入された場合、もっと厳格な仕組みが必要になろう。

もっとも、「ネット」が必須業務となれば、「NHKプラス」は、「プラス」でなく「NHK」そのものになるから根本的な見直しを迫られよう。

さらに大きな課題は、「ネット受信料」の徴収額をいくらに設定するかだ。

高校野球や大リーグのスポーツ番組など「放送」では見られるのに「ネット」では見られない番組がたくさんあるのに、「放送」と同額の受信料を徴収できるのか、との指摘がある。NHKは、視聴の「対価」ではなく「特殊な負担金」という説明で切り抜けようとするだろうが、ネット視聴者の反発は免れない。

「ネット受信料」の徴収対象者は、現時点ではそれほど多くないとみられるが、テレビ離れが進む中、近い将来、ネット視聴予備軍がぐっと増えることが予想されるだけに、大きな問題に発展するだろう。

受信料に格差をつけるか、著作権問題を早急にクリアして「放送」と同じ番組を見られるようにするか、早々に判断が求められる。