ネット記事は廃止する方向に

一方、報告書は、放送番組以外のコンテンツは限定的であるべきとの見解を示した。現在提供している無料の文字ニュースは「災害時など緊急性のある情報に限定」し、「いったん廃止されるべき」と明示した。放送法の趣旨からすれば、きわめてまっとうな整理だろう。

とくに問題になったのは、「理解増進情報」というNHKに認められたネット上の情報提供だ。当初は、番組の周知・広報などの情報をささやかに発信していたが、最近はニュースの深掘り記事や、YouTubeでの動画、地域局における課題解決におけるコミュニティー運営など、なし崩し的に範囲が拡大、「放送」とはかけ離れた内容も目立つようになっていた。

日本新聞協会や日本民間放送連盟(民放連)が厳しく糾弾した結果、ワーキンググループがまとめた案にあった「放送番組の時間的制約のために載り切らなかった情報」も、最終的には廃止の対象になった。

「ネット」の特性を活かした「番組プラスアルファの情報」を発信すべきとの意見もあるが、そのためには放送法を根本から見直す必要がある。それこそ「公共メディアとは何か」という議論に委ねなければならない。

ついに「ネット受信料」の徴収に動き出す

さて、もう一つの大きなテーマが「ネット受信料」の創設だ。これでNHKには、テレビを持たないネット視聴者からも受信料を徴収できる道が開かれることになる。

ネット視聴者にとってはもっとも気になる問題だが、有識者会議は基本的な考え方を示しただけで、具体的な制度設計は先送りされた。というのも、検討しなければならない課題がたくさんあるからだ。

報告書は、テレビを持たずにスマートフォンやパソコンだけで番組を見ようとする視聴者に対して「相応の費用負担を求める」と明記。「通信端末を持っているだけでは徴収すべきでない」としたうえで、「アプリのダウンロード」「IDやパスワードの取得・入力」など、視聴意思が外形的に明らかになるような積極的行為を徴収の要件に挙げた。

逆にいえば、チューナー非搭載のテレビやNHKの番組を見られるアプリをインストールしていないスマートフォンを持っているだけでは、受信料を払う義務を負わなくてもよいことになる。

実際に徴収するには課題が多い

ただ、報告書が挙げた徴収の要件では矛盾が起きる。放送法は「受信設備をもっている者は受信契約を結ばなければならない」と定めているのに、「アプリのダウンロード」「IDやパスワードの取得・入力」を要件にすることは、事実上のスクランブル放送を容認することになる。

「放送」は、受信料を払っていなくても受信端末を持っていれば番組を見ることができるのが実態で、これはNHKが災害などの緊急情報は全国あまねくだれにでも届けることが「公共放送」の使命と位置づけているからだ。放送法の趣旨にも沿っている。

ところが、報告書は、「ネット」の場合、受信契約した人しか番組を見られないと規定した。これでは、情報の空白地帯に置かれてしまう人が生まれ、「公共メディア」としての基本理念とは相いれなくなる。

となると、「放送」と同様に、「ネット」でもだれもが受信できる環境を用意したうえで受信契約を結ぶ形を想定しなければならないはず。もっとも、そうなったら「ネット受信料」の徴収に応じる人は限定的になるだろう。