ネット配信する番組・情報はどうなるのか

次に、「ネットの必須業務化」の意味合い。それは、「放送」と同様に「全国あまねく番組を提供しなければならない」という義務を負うことにほかならない。言い換えれば、全国どこでも、テレビを持たなくても、ネットを利用できる環境にある人には誰でも、NHKの番組を見られるようにしなければならないのである。

少し説明的になるが、メディアの成立要件として「メディアの三要素」という概念がある。「情報」「伝送路」「端末」のことで、いずれが欠けてもメディアとして機能しない。

放送における「情報」とは「番組」を指し、「伝送路」は電波、「端末」はテレビやラジオである。一方、必須業務になるネットの「情報」は放送と同じ「番組」だが、「伝送路」は通信ネットワーク、「端末」はパソコンやスマートフォンが該当する。

つまり、視聴者は、NHKの「番組」を、電波でも通信ネットワークでも「伝送路」を選ばず、テレビ・ラジオでも、パソコン・スマホでも、さまざまな「端末」で見られる、という図式になる。これが「ネットの必須業務化」の本質であり、2000年代から唱えられてきた「放送と通信の融合」の究極の実践にほかならない。

テレビを手中に収めんとする男性
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国内の通信インフラは通信事業者によっておおむね整えられているが、全国津々浦々となるといささか心もとないところもある。また、サッカーやラグビーのワールドカップのようにネット視聴者が集中したときに、つながりにくくなったり途切れたりしないよう安定的に配信できるかどうかは予断を許さない。このため、NHKとして、通信ネットワークの確保や高性能サーバーを含めたシステム構築などの環境を整えばならなくなる。

いまは「この映像は配信しておりません」と表示されるケースも…

報告書は、ネット配信の「範囲」を「放送番組と同一のもの」と規定した。つまり、「放送」でも「ネット」でも同じ番組を提供することが義務づけられたのだが、「NHKプラス」の現状をみると、視聴できるのは総合テレビとEテレの地上放送だけで、衛星放送も、国際放送も、ラジオ放送も対象外だ。

この点については、有識者会議は年内に結論を出すとしているが、仮に現状のままで衛星放送などに拡大しなければ、ネット配信が「放送番組と同一のもの」にならず、有識者会議は自ら天にツバしかねないことになる。

また、著作権の絡みから、高校野球や大リーグなどスポーツを中心に「放送」で視聴できても「ネット」では見られない番組が少なくない。ニュースでさえ、いわゆる「ふたかぶせ」と呼ばれる手法で、突然画面がフリーズして「この映像は配信されておりません」と表示され音声も出なくなる事態が頻出している。

「放送」と「ネット」で見られる番組に違いがあるようでは必須業務の義務を果たせたとはいえず、「ネット受信料」を払うことになるネット視聴者から強い不満が出るのは避けられそうにない。