仏壇を購入・修理する時の独自の風習

われわれ日本人は、遺体や遺骨が埋葬されている墓所に行って供養をする一方で、家庭では仏壇に参って一家の安泰などを祈る。仏壇にはその家の先祖が宿り、これを鄭重にまつることによって生きているものに幸いをもたらしてくれると考えられているのである。

新たに仏壇を購入したときや修理が出来上がった時には「おたま入れ」という仏事を行う。「お霊入れ」を行っていない仏壇は食器棚や洋服ダンスと同様、単なる入れ物に過ぎない。しかし、「お霊入れ」を行うことによってそこに先祖の霊が入って来る準備ができるのである。

また、仏壇を買い替えるときや修理に出すときには「撥遣はっけん式」という儀礼が行われる。これは仏壇に宿る魂を抜き取る儀式で、これを行うことによって仏壇は単なる箱、入れ物になり修理の手を入れることが可能になる。そして、古い仏壇は粗大ごみなどに出すのではなく、寺院のお焚き上げなどで焼いてもらう。

瓜生中『教養としての「日本人論」』(KADOKAWA)
瓜生中『教養としての「日本人論」』(KADOKAWA)

「お霊入れ」や「撥遣式」は僧侶を呼んで行われるが、近年では菩提ぼだい寺を持たない人も多く、仏壇店が代わりに行い、要らなくなった仏壇は関連の寺院でまとめてお焚き上げを行うことが多くなってきている。

仏壇はインドや中国をはじめ他国には見られない日本独自の習俗である。そして、それは日本古来の両墓制に淵源し日本の神の信仰に基づくものである。一般庶民が年忌法要などを営み墓を建てるようになったのは室町時代以降のことで、このころから仏壇や位牌も一般に普及し、江戸時代になると、檀家制度の確立に伴ってほとんどの家庭に位牌をまつる仏壇が備えられるようになった。

関西・北陸に豪華な金仏壇が普及した理由

最後に仏壇には大きく分けて「唐木からき仏壇」と「きん仏壇」とがある。前者はケヤキなどで作った黒塗り、あるいは塗りを施さない素地のもので、主に関東以北で用いられ、後者は外側を黒塗りにして内部に金箔を貼った豪華なもので関西や北陸地方などで用いられる。

もともと仏壇は唐木仏壇のような簡素で小型のものだったと考えられる。しかし、室町時代に活躍した本願寺第8世の蓮如(1415~1499)が豪華な金仏壇を奨励した。そこで、京都を中心とする関西地方や西日本、蓮如が盛んに布教活動を行った北陸地方に金仏壇が普及したのである。

蓮如の時代、本願寺は参詣の人の姿も見えないほど荒廃しており、蓮如はその立て直しのためにさまざまな改革を行った。金仏壇の奨励も立て直しのために考案されたアイディア商品の一つで、高価な金仏壇を檀家が購入することで復興の浄財にあてたのである。このような経緯から、今も京都の本願寺の周辺には仏壇店が多く軒を並べている。

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