日本人は「無宗教」なのだろうか。仏教研究家の瓜生中さんは「日本人は神社への信仰を宗教ではなく、『生活の規範』程度に捉えている。そもそも明治時代までは『宗教』という概念すらなかった」という――。

※本稿は、瓜生中『教養としての「日本人論」』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

参拝する人
写真=iStock.com/taka4332
※写真はイメージです

日本人は「無宗教」ではない

日本には今も約7万7000カ寺の寺院と約8万8000社の神社があるといわれている。これに家々や会社の敷地内やビルの屋上にまつられているお稲荷さんの社などを加えれば、とてつもない数の神社が存在することになる。さらに、路傍や田畑の畦道にまつられている地蔵や馬頭観音などの石仏、庚申塚や道祖神などを入れれば、それこそ天文学的な数字になるということができるだろう。

また、初詣には神社と寺院を梯子し、旅行に行けばその行程には必ず神社仏閣が組み込まれている。そして、若い人でもお稲荷さんの社や路傍の石仏に手を合わせる姿は日常的に見ることができる。

日本人は外国人から無宗教だとか信仰心がないなどというレッテルを貼られ、だから、信頼性に欠けるといわれている。しかし、上述したような状況を見れば決してそのようなことはないのである。

ただ、日本人はキリスト教徒やイスラム教徒のように特定の信仰を持たないということは言えるだろう。日本人が古くから拠り所としてきた神社の信仰は宗教というよりも生活の規範のようなもので、神社にまつられている神に鄭重に仕えることによって大過ない日常生活、ひいては人生を送ることができると考えているのである。