「ブランドイメージの毀損」は杞憂だった

2009年にユニクロの「+J」が始まるわけですが、日本のマス層にはH&Mよりもこちらの方の認知度が高かったのではないでしょうか。

H&Mの各コラボ発表時、+Jのスタート時ともに業界関係者やメディア関係者からは「低価格ブランドとコラボをすることでブランドのステータス性が低下してブランドイメージが毀損きそんするのではないか?」という意見が多数挙がりました。また十数年経過した現在でもそのような意見を聞くことがあります。

しかし、これらの意見はほぼ杞憂きゆうに終わったといえるでしょう。コムデギャルソンにしろ、その他のブランドにしろ、2023年現在、ブランドイメージは全く毀損していません。むしろ、デザイナーズブランド側はH&Mやユニクロとのコラボによって一般大衆に認知度を高めたというメリットしかありません。今回のユニクロ:シーのクレア氏も同様です。

型紙を微調整しているデザイナーかパタンナー
写真=iStock.com/erikreis
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以前ユニクロのデザイナーズインビテーションに参加したデザイナーの知り合いにユニクロとのコラボの反響について尋ねてみたことがありました。

「もう何年か前のことになりますがユニクロとのコラボの成果はどうでしたか?」と尋ねると「服飾業界とは全然関係のない生活をしていて、私のブランドなんて関心を寄せていなかった学生時代の旧友や知人たちから『ユニクロとコラボするなんてすごいね』というメッセージを多数もらいました。ユニクロのマス層への影響力はすごいですね」という答えが返ってきました。

高級ブランドは「入門編」で新規顧客を得たい

この時に、私自身もユニクロのマス層への影響力の大きさと知名度の高さを痛感したのと同時に、業界関係者がこれまで懸念していたような「ブランドイメージの低下ないし毀損」という状況は起きていないということを改めて痛感しました。

デザイナーやブランド側からすると知名度が高まるというメリットしかないということだったのです。だから、ユニクロにせよH&Mにせよ毎年さまざまなデザイナーズブランドとのコラボが可能なわけです。相手側が嫌がるのに無理にコラボを強制することはできませんから、相手側も相応のメリットがあると認識して契約しているということになります。

知名度が高くなることは単純にメリットですが、それ以外にもファンの裾野が広がり新規顧客獲得の可能性が高くなります。とくに低価格ブランドとのコラボ品を「入門編」と位置付ければ、購入のハードルが下がって買いやすいと感じる人は増えます。