「共同富裕」のジレンマ

不動産市況が軟調になったのには理由があります。習近平国家主席が「共同富裕」を唱えたことが大きく関係しています。1970年代後半の鄧小平氏による「改革開放路線」により、中国経済は90年代あたりから急速に成長しました。それにより、富裕層も増大したのですが、弊害として貧富の差が激しくなりました。

中国は56の民族からなる多民族国家で、全人口の9割強が漢民族という複雑な国家です。新疆ウイグル自治区やチベット自治区、内モンゴル自治区では、厳しい思想統制や中国化のための弾圧も行われています。そのような状況で、成長のひずみとして都市部と農村部、漢民族と他民族との間での格差も広がりました。

中国政府にとっては、「共産党一党独裁体制の維持」が大きな政策目的ですから、経済格差は非常に大きな問題を生む可能性があるのです。そんな状況で習近平氏は、腐敗撲滅とともに共同富裕を打ち出したのです。

中国の土産物屋のショーウィンドウに並ぶ、毛沢東や習近平の写真が印刷された皿
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具体的な政策としては、一人っ子政策で富裕層は子供の塾に月に数十万円をかけるというようなことが起こっていたのですが、塾に対する規制の強化などを打ち出しました。そして、その政策の一環として、不動産の保有が貧富の格差を拡大しているということも大きく、不動産部門への融資を絞るなどの政策をとったのです。

中国では、かつての日本のように、不動産を保有していれば、将来は必ず値上がりするというような感覚が生まれ、富裕層は、自分で住む以外の不動産を保有するようになり、それがさらに貧富の差を拡大したのです。また、不動産事業を行う経営者が、恒大はじめ中国有数の金持ちともなりました。

いまでは、人の住まない住居が5000万軒あると言われています。それらの不動産価格が下がり始めたのです。

シャドーバンキングの行き詰まり

不動産不況だけなら、問題はシンプルかもしれませんが、バブル崩壊の気配が見え隠れしています。中国では、土地は国が保有しています。地方政府はその土地を貸し出すことで収入を得ているのですが、開発が進めば、その分、地方政府の土地の賃料収入が増えるという構図となっています。そのため地方政府自身も開発に大きく関与しました。

開発業者や地方政府には資金が必要ですが、そこで登場したのが「融資平台」と言われる仕組みです。「シャドーバンキング」とも言われるものです。地方政府は通常は中央政府が認めた債券を発行して資金調達を行いますが、別動隊として銀行とはまた違う融資平台を活用して資金調達や資金供給をしてきました。

これも不動産価格の右肩上がりを前提としていましたが、恒大などの破綻や不動産価格の下落でそのシャドーバンキングで調達した資金が、不良債権化するリスクがあるのです。「シャドー」ですから、正確な金額の推計は難しいのですが、一説にはその額は2000兆円程度と言われています。

1990年代に日本のバブルが崩壊しましたが、その際に銀行の不良債権は約100兆円と言われました。その後の日本の金融危機や低迷具合を見れば、100兆円の不良債権処理のインパクトはすさまじいものでしたが、2000兆円全額でないにしても、中国で不動産バブルが崩壊すれば、そのインパクトは想像を絶するものとなる可能性があるのです。