条件付きとはいえ「田代ダム案」を川勝知事がのんだ
JR東海は有識者会議で、県境付近の工事完了後に、山梨県内のトンネル湧水をポンプアップして、流出した湧水全量分を戻すと提案していたが、その提案に川勝知事はさまざまな言い掛かりをつけた。
このため、2022年4月の県専門部会で、JR東海は、大井川の水で水力発電を行っている東京電力リニューアブルパワーの内諾を得た上で、山梨県へ流出する東電・田代ダムの湧水を取水抑制してもらい、大井川にそのまま放流する「田代ダム案」を提案した。
川勝知事が河川法の水利権を持ち出して、田代ダム案を妨害する言い掛かりが続いた。
これで1年以上も遅れたが、JR東海は昨年9月末、田代ダム案の具体的な実施策を流域市町など利水関係者へ説明、大筋の了解を得ることができた。
染谷絹代・島田市長らは「利水関係協議会として田代ダム案に合意する。これで水資源保全の問題は解決の方向が見えた」などと期待を寄せた。
流域市町などの強い姿勢に川勝知事は、昨年11月28日の会見で、「県境を越えた静岡県内の高速長尺ボーリングの実施は、生態系への懸念などに具体的な保全措置を示すことが条件」などと発言したが、何はともあれ、「田代ダム案」容認の姿勢を示した。
2022年1月の段階で、県は「県境付近の工事期間中のトンネル湧水の全量戻しの方法について解決策が示されていない」として、国の有識者会議の結論を蹴った。
ところが、条件をつけたとはいえ、「田代ダム案」が容認されたことで、川勝知事の求める「県境付近の工事期間中の全量戻し」が解決されたことになる。
JR東海は河川法に基づく占有許可申請をすべき
染谷市長らの言う通り、「中下流域の水資源保全の問題は解決した」のであり、リニアトンネル工事による「下流域の利水上の支障がない」ことを、川勝知事を含めて大井川利水関係協議会が認めたことになる。
となれば、JR東海は河川法に基づく占用許可申請を行い、まずは「(リニアトンネル工事が)利水上の支障がない」ことを明確にさせるべきである。
リニアトンネル(斜坑、導水路トンネルを含む)は西俣川、東俣川(いずれも大井川上流部の分岐点からの呼称)の6カ所を地下約400メートル前後で通過する。
大井川は全長168キロのうち、駿河湾から下流域の26キロを国、そこから源流部までの約142キロを県が管理する。
西俣川、東俣川は県管理の部分であり、河川内(大深度地下を含む)に工作物を新築する場合、JR東海は知事の許可を得なければならない。
河川法許可の審査基準は、①治水上又は利水上の支障を生じるおそれがないこと、②社会経済上必要やむを得ないと認められるものなどである。
リニアトンネルの場合、これまでは「利水上の支障」が問題だった。
川勝知事は「中下流域の利水に支障がある」として、占用許可を認めない方針を堅持してきた。
ところが、川勝知事が「全量戻し」の解決策・田代ダム案を認めたことで、「利水上の支障」の懸念は解消されたのである。
つまり、JR東海が河川法の許可手続きに入る障害がなくなったのだ。