海保が海警に惨敗するとは思えないが…

このように書くと、有事の際に海上保安庁は海警と一戦交えるつもりなのかと誤解されるかもしれませんが、「戦闘」は有事下においても海上保安庁の任務ではありません。海上保安庁がやるべきことは、自衛隊をはじめとする関係機関と連携・協力しながら国民の命を守ること(国民保護措置)です。海警と戦って勝つことではありません。

当然、有事下でも海上保安庁のほうから海警に攻撃を仕掛けるようなことはありませんが、仮に海警から攻撃を受ければそれを防ぐための必要な対応はとることになります。

たとえそのような事態になったとしても、現状の両者の勢力・実力を比較する限り、海上保安庁がなすすべもなく海警に負けてしまうとは到底思えない、というのが私の意見です。

もうひとつ誤解のないようにお断りしておくと、私はけっして「海警など恐るるに足らず」と言っているわけではありません。

繰り返しますが、近年の海警の急速な勢力拡大は間違いなく脅威です。

海上保安庁(PLH-31)
写真=iStock.com/viper-zero
※写真はイメージです

海警は12年前から着実に実力を伸ばしている

船舶の数を増やし、武装化・大型化するなどのハード面の実力のみならず、実は、操船技術などソフト面の実力も以前と比べて着実に伸ばしてきているのです。

尖閣諸島国有化で海警の活動が活発化し始めた2012年、私は領海警備対策官というポストに就いていましたので、まさに尖閣の最前線で海警と丁々発止のやり合いもしました。当時、現場で海警と対峙して私が抱いた率直な感想は「この程度なら勝てる」でした。

詳細は語れませんが、たとえば操船技術ひとつとっても、海上保安庁のほうが圧倒的に海警を上回っていたからです。当時の海警の操船技術は海上保安庁の足元にも及びませんでした。

加えて、あの頃は船舶の性能でも海上保安庁の巡視船のほうが上回っていたと思います。海上保安庁側に十分余裕のある状況だったというのが私の感覚でした。

しかし、現在の海警はもはや当時とは違い、ハード面の強化とともに、操船技術が格段に向上しています。

勢力のみならず能力の面でも、今となってはけっしてあなどれない相手になってしまいました。