「事実の羅列」ではダメ

質問されたことに対し、抽象的な答えしか返せない人は少なくありません。

あるいは、本質からズレた、あまり関係ない答えをして、それに気づいていない人もいます。

頭がいいといわれる人は、問いに対して「具体的かつ本質的」な答えを常に心がけています。

本質とは「的を射ている」ということ。目指すところはまさにそこです。

たとえば、AさんがBさんに「昨日の休日は何をしていたの」と聞いたとしたら、Bさんは「午前中はジムに行って筋トレしたよ」とか、「夜はナイターを観に行ったよ」と答えればいいところを、朝7時に起きて洗濯をして、そのあとで布団を干して……などと、味のない事実の羅列をひたすらしてくれるかもしれません。

しかし、これは具体的なだけで本質ではないわけです。

田中角栄のスピーチが心をつかむ理由

あるいは、ゴルフ好きな方に「ゴルフのどんなところに魅力を感じていますか」と聞いているのに、「ゴルフは僕の人生だからさ」と返されても、質問者が知りたい答えにはなっていません。

その答えはその人にとっては本質なのかもしれませんが、具体性がまったくないのです。

また、「スライダーを打つにはどうしたらいいでしょうか」と相談されて、コーチが「とにかく根性だ! 気合でいけ!」としか答えられなければ、そこには具体性も本質性も両方ないということになってしまいます。

この、「本質性」と「具体性」の概念を4分割したのが図表1です。

理想はいうまでもなく、具体的かつ本質的であること。

齋藤孝『本当に頭のいい人がやっている思考習慣100』(宝島社)
齋藤孝『本当に頭のいい人がやっている思考習慣100』(宝島社)

すなわち、図の右上のゾーンにいくほど理想的ということになります。

これを実践できた典型の1人が、元総理大臣の田中角栄氏です。

彼は聴衆の求めているテーマを的を射るように選び出し(本質的)、感覚的なように見えてしっかりと数字や事例を並べ(具体的)、そうしたスピーチで人々の心をわしづかみにしたのです。

普段の自分の会話や文章が、この図のどのあたりにあるのか、落とし込んで分析してみるのもいいでしょう。

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