ベルリン郊外に広がる“巨大未来工場”
3月20日、テスラのギガファクトリーを見てきた。3月5日の朝方、極左グループによって攻撃された工場である。
テスラのギガファクトリーは、ベルリン市から40kmほど南西、ブランデンブルク州に入ったすぐのグリュンハイデという町にある。アウトーバーンを、「ギガファクトリー」の看板に従って降りた途端、目の前に、文字通りギガ(巨大)で未来っぽい建物群が現れる。最初の建物の前面には、「WE ARE GIGA WE ARE THE FUTURE」の文字が踊り、周辺は見渡す限りの広大な駐車場。3000台分のスペースという。
そのうちの2~3割には、各駐車スペースにそれぞれ充電装置が設置されているが、そこは満車状態で、もちろん、ほとんどがテスラ。いずれにせよ、何百台ものEVがずらりと並び、全車両にコードがつながっている光景は、あたかも未来を予言するようで、かなりのインパクトだった。
勢いだけでいえば、ベンツもBMWもすでに負けている。近い将来、テスラを所有することが、ドイツの金持ちのステータスになるのではないかというような考えさえ、頭を掠めた。
住民1万人を巻き込む放火事件が発生
3月5日、このギガファクトリーに電気を供給していた重要な送電塔が放火され、生産が8日間、完全に停止した。しかも、ブラックアウトはテスラの工場だけでなく、ベルリン市南部の住人1万人を巻き込んだ。そこには病院や老人ホームもあったため、人命を危険に陥れかねない卑劣な犯罪である(テスラの工場以外の停電は、放火された日の夕方には復旧)。
卑劣さは、詳細を見るとさらに極まった。というのも、火災の報を受けて、送電塔に向かおうとした消防や警察が見たものは、地雷を仕掛けたことを示唆するプラカードだったのだ。当然、消火活動は安全確認が終わるまでできなかった。
ちなみに、ドイツの行政の大きな問題の一つが、あまりにも肥大した官僚制で、膨大な書類の提出や複雑な認可制度が健全な産業発展の足枷となっている。高速道路一本の認可に10年以上かかることさえある。
ところが、このテスラのギガファクトリーだけは、2019年の終わりにイーロン・マスク氏が建設の意思を示した後、異例の早さで認可がおり、300ヘクタールもの森が提供され、木が伐採された(テスラは他の場所にそれと同じ面積の植林をした)。そして、20年には工場群の建設が始まり、22年3月には早くも初のドイツ生まれのテスラが誕生。現在、1万2500人が働いており、モデルYなどのラインが稼働し、生産台数は年間37万台まで伸びている。