EUの「窒素排出規制」に各国の農家が激怒

1月8日、買い物に行こうと玄関を出たとたん、遠くからラッパのような音が耳に飛び込んできた。「あ、ライプツィヒでもやっているんだ、農家の抗議デモ!」

鳴り響いている音はラッパではなく、クラクションだ。

ドイツ農民連盟主催のストライキに参加する抗議者たち
写真=EPA/時事通信フォト
ドイツ農民連盟主催のストライキに参加する抗議者たち。連邦政府の農業政策に抗議し、ドイツ全土でストライキが行われた=2024年1月15日、ベルリン

2022年から2023年にかけて、オランダでも長期間にわたって、やはり農民たちのデモが行われ、警察がデモ隊に発砲するなど、ただならぬ事態も起こった。原因はEUが定めた窒素の排出基準。

オランダ政府はこれに沿って、2030年までに自国の農業における窒素の排出を半減させようと躍起になっていた。「この排出基準を守るためには、農家は違う場所に引っ越すか、廃業するかしかなくなる」という農民側の言い分は誇張ではなかった。

実際に政府は、廃業する農家には補償を出したが、しかし、その後、二度と農業に復帰しないという約束をさせた。そして、それでも立ち退かない農家の土地は政府が没収するとしたのだから、誇り高き彼らが怒ったのも無理はなかった。背景にあったのがEUのグリーンディールだ。

無茶なCO2削減策でドイツ経済はガタガタ

EUのグリーンディールとは、フォン・デア・ライエン氏が欧州委員会の委員長になった2019年末、いの一番に打ち上げた政策だ。「温室効果ガスの削減」と「経済成長」の両立を掲げ、それをEUの新しい成長戦略に据えたのだが、それから4年が過ぎた今、これによって「経済成長」したのは、一部の再エネ関連産業のみ。

ドイツは太陽光パネルも風車もどんどん増えるが、よくよく見れば、彼らの儲けの原資は、ほとんどが税金か国民の直接負担という、かなりいびつな構造なのだ。

本来の、気候保護という目的もまるで達成されておらず、それどころか、電気の供給は不安定化し、料金は上がり、CO2の排出量では、今やEUでポーランドと1位、2位を争っている(ただし、ポーランドは原発建設を進めているので、将来的にはCO2は減る予定)。結局、肝心の経済は、高い電気代とさまざまな規制でがんじがらめ。農業も、こうして追い詰められてしまった部門の一つといえる。

現在、ドイツの農業政策は、酪農はメタンなど温室効果ガスを排出するので縮小を目指し(これはオランダと同じ)、一方、有機農業の面積は強制的に広げられようとしている。ただ、現実として、化学肥料を駆逐した有機農業では、手間はかかるが、収穫は半減する。