炭鉱を襲撃しながら、CO2ゼロの原発も反対

左翼の「気候活動家」は、これまでガソリン車やディーゼル車の駆逐に狂騒していたのだから、そういう意味では今回のテスラ攻撃は辻褄が合っていない。いや、思えば左翼はこれまでも、CO2削減のために炭鉱を襲撃しながら、一方ではCO2を出さない原発の停止も求めるという非論理性もなんのそのだったから、辻褄などどうでもいいのかもしれない。

なお、今回のテスラの被害総額は膨大なものになりそうだ。テスラ社の推定では約10億ユーロ(1640億円、他のリサーチ会社の推定ではそれより低いものもある)。

被害は製造ラインの停止による売り上げの落ち込みのみならず、停電になった時、ちょうど塗装中だったり、腐食防止の薬品に浸かっていたりしたボディはすべて破棄しなければならないとか、組み立て作業に使われていたロボットは通電後もすぐに使えるわけではなく、すべて最初から設定し直さなければならないとか、工作機械自体に不具合が生じている可能性があるとか、非常に面倒らしい。

ハイテクになればなるほど停電の被害が深刻だというのは、よく言われていることだ。工場がようやく再稼働したのは、放火から8日後の13日の午後だった。

自動車産業用バッテリー
写真=iStock.com/SweetBunFactory
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再稼働の日、突然息子と工場に現れて…

そしてこの日、マスク氏が突然、幼い息子を連れてギガファクトリーに現れた。前回、2020年にベルリンを訪れた時は「次回は子供を連れてくる」と言ったのだそうで、その約束を果たしたわけだ。

子供を肩車したマスク氏は、工場の敷地に設置された巨大なテントで、待ち構えていた従業員らに「イーロン、イーロン!」の大歓声で迎えられた。翌日には米国で予定があったそうで、本当に電撃トンボ返りだったが、従業員はこれを、氏がギガファクトリーとその従業員を大切に思っている証拠だと取った。

また、マスク氏に続いてスピーチをした工場長も、従業員の連帯に対する感謝の意を述べ、毎年の賃上げを約束したというから、テスラ社内の団結は放火事件によって間違いなく堅固になった。ただ、ジャーナリストは締め出され、その夜のニュースには、柵の外側から遠景で撮影したテントとマスク氏、そして、従業員の歓声だけが流れた。