主観によるバイアスを自覚する

部下のことはできる限り客観的に見て、平等に接するべきだが、残念ながら、人間はそのようにはできていない。人にはバイアスがあり、他者への評価にもそれが影響する。

部下の中にもお気に入りができてしまう。それ自体は当たり前のことだ。ただし、個人的な好き嫌いは業績評価から排除せねばならない。また注意したいのが、一緒にいて楽しい気の合う部下を、必要以上に手厳しく評価しがちなことだ。評価の際には、定量データや数値を活用して、主観が混じり込まないようにしよう。

マネジャーにありがちなのが、「ハロー効果」(後光効果、光背効果)によるバイアスだ。たとえば、評価対象の部下には5項目の目標を設定しており、そのうちの1つは部署のエラー率を5%削減することなのだが、これがあなたにとって他の目標より重要だったとする。

部下がその目標を達成している場合、あなたがその部下を見ると、天使の後光(ハロー)のように光り輝いて見える。このハロー効果で目がくらんで「この部下には何も悪いところはないはず」と思い込んでしまうのだ。

ハロー効果が起こると、他の項目についても評価が甘くなりやすい。生活のどんな場面でもハロー効果は起きる。たとえば学校で担任の教師が理科を好きだとすると、理科が得意な生徒の頭に後光(ハロー)が見えてしまい、数学や歴史でも高い評価をしがちになる。理科ができるせいでバイアスが生まれているのだ。

オフィスで話しているグループ
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ハロー効果の逆は「ホーン効果」(悪魔効果)と呼ばれている。部下がエラー率を削減できなかったとすると、頭に悪魔の角(ホーン)がついているように感じるわけだ。他のことでよい仕事をしていても、マネジャーの眼からは、たいしたことがないと判断される。その部下には悪魔の角(ホーン)があるからだ。

さらに「新近効果」というものもある。マネジャーも人間なので、最近起きたことをよく覚えているものだ。だから、評価を気にしている部下は、評価が6月1日に行われるとわかっていれば、特に4、5月に仕事を頑張ればよい。これは、豪華なプレゼントが欲しいからクリスマスが近づくと行儀がよくなる子どもと似た行動だ。この影響を避けるためには、評価対象期間を通じて記録をつけ、文書として保管しておくことだ。

マネジャーの主観を左右する心理的バイアスには、「厳格化傾向」もある。完璧な部下などおらず、誰もがより良い仕事をできる余地があるはず、とマネジャーは考えがちである。この考え方自体に異論のある人は少ないだろう。

だが、この考えのせいで、部下に「優」などの最高評価を絶対につけないマネジャーがいるのだ。この行動は論理性を欠いており、しかも部下の士気を下げてしまう。目標を大幅に超えて達成し、非常に高水準で業務ができた部下には、最高評価をつけるのが当然だ。

この手の上司は部下にベーブ・ルースがいても最高評価をつけないだろう。子どもがクラスで最高点の99点を取っても、親がそれを褒めずに「どうして間違ったの?」という例を聞いたことがあるだろう。この親は「厳格化傾向」に嵌まり込んでいる。満点を取るよう子どもに発破をかければ成績は伸びると信じているのだろうが、子どもの受ける心理的ダメージを考えるべきだ。