ウォルマートとイケアの失敗

人は、迷いたいのか、迷いたくないのか。「当然、迷いたくない」と思うかもしれないが、じつはそうではない場合が意外に多い。迷わなくていい合理的な店づくりが、お客にとって物足りなく、味気なく、つまらなく感じられてしまう場面は、決して少なくないのだ。

世界最大の小売であるアメリカのウォルマートでは、2009年に「プロジェクト・インパクト」と呼ぶ改革を行い、売れ筋に重点を絞って商品数を削減し、賑やかだった売り場を、合理的で買いやすい売り場に変更した。これは、商品数を減らすことで、お客にとって無駄のない最適な店づくりを狙った取り組みだった。しかし、その狙いに反して、お客は売り場の魅力が低下したように感じてしまい、売上は減少を続けた。この取り組みは1年ですぐに撤回され、お客の期待に応えられる大量陳列の売り場に戻されることになった。

世界最大の家具量販店のイケアも、同様の失敗を経験している。イケアは、迷路のような独特の店づくりで、様々なタイプの部屋を模したショールームを順番に巡る設計で、お客に長くゆっくり歩いてもらい、様々な買い物を促す空間を特徴としている。それを2015年頃から、順路の決まった迷路型を止めて、お客が自由に効率的に歩き回れる新レイアウトを導入した。すると、イケアらしさが失われてしまったことに対する不満の声が続出し、元の迷路型の設計へ戻すように方針転換が進められている。

買い物をする女性
写真=iStock.com/SDI Productions
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「とことん迷いたくない」「とことん迷いたい」の二極化

現代のお客は、「とことん迷いたくない」と「とことん迷いたい」の二極化を進めている。前者は、一切迷うことなく、早く、簡単にできる合理的で効率的な買い物だ。クチコミ、おすすめ、担当者やAIによる最適提案などを受け入れて、悩まずに決められる「楽な買い物」が、特にオンラインでは支持されやすい。

一方で、後者の、迷いながら、ゆっくり、じっくり買い物をしたい場面も確かに存在している。こちらは、沢山の選択肢や情報の中から、「自分で悩み抜いて納得して決めたい」「探し抜いて辿り着いて選びたい」「偶然の出会い、驚きの出会いを味わいたい」といった思いのこもった買い物だ。特別な時間・買い物・体験を得られる「楽しい買い物」は、特にリアルの店において、これまで以上に重視されるようになっている。