ドン・キホーテを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスは34期連続の増収増益を達成している。マーケティングに詳しい高千穂大学の永井竜之介准教授は「ドン・キホーテ独自の強みは『店づくり』だ。ウォルマートやイケアと同じ失敗をしなかったことが重要だ」という――。
ディスカウントストア「ドン・キホーテ池袋東口駅前店」
写真=時事通信フォト
ディスカウントストア「ドン・キホーテ池袋東口駅前店」=2023年8月28日、東京都豊島区

「世界の小売業ランキング2023」にランクイン

「魅力的なお店」といえば、お客を喜ばせる綺麗でオシャレな店や、お客を悩ませない分かりやすくてストレスフリーな店を思い浮かべやすいだろう。しかし、お店の魅力はオシャレやストレスフリーだけとは限らない。真逆の店づくり、つまり、オシャレではない店づくり、お客をあえて悩ませる店づくりによって、右肩上がりの成長を実現している企業がある。それが、日本有数の小売業にまで飛躍を遂げているドン・キホーテだ。

デロイトトーマツの発表した「世界の小売業ランキング2023」では、ドン・キホーテを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(以下、PPIH)は世界78位で、セブン&アイ・ホールディングス(15位)、イオン(17位)、ファーストリテイリング(57位)に次いで、日本小売業として4番手に位置付けている。「急成長小売企業50社」としては日本勢で唯一のランクイン(25位)を果たしており、日本小売業で1番の成長を実現している存在といえる。

PPIHは、ドン・キホーテをはじめとする小売店を国内外で728店舗展開し(2023年12月31日時点)、2023年6月期末の売上高は1兆9368億円(前年同期比5.8%増)、営業利益は1053億円(同18.7%増)でいずれも過去最高を更新し、34期連続の増収増益を達成している好調ぶりだ。

深夜の作業中に店を開けていたら多くのお客が訪れた

ドン・キホーテは、1978年、創業者の安田隆夫氏が29歳のときに西荻窪で開店した「泥棒市場」から始まった。この店は、メーカーや問屋の倉庫で眠っている廃盤品、季節外れの処分品、サンプル品などをとにかく格安で仕入れ、山のように積んで並べ、手書きの店内広告を沢山書き、安く販売した。人手不足で深夜に荷解きをしなければならず、その作業中も店を開けていたところ、深夜にもかかわらず意外に多くのお客が訪れたという。

この泥棒市場が評判を呼び、1989年にドン・キホーテ1号店が誕生した。訳あり品や時期外れ品などを安く仕入れる「スポット仕入れ」、商品を天井近くまで積み上げたり高密度に並べたりする「圧縮陳列」、安さを強調しつつ楽しさを演出する手書きの店内広告「POP洪水」、夜を楽しく過ごしたい若者や観光客のナイトマーケット需要に応える「深夜営業」など、泥棒市場での成功体験を引き継ぎながら、ドン・キホーテはグングンと成長を遂げていった。