プライベートブランド「情熱価格」も成功要因

現在に至るドン・キホーテの飛躍は、様々な要因に支えられている。閉店になった総合スーパーの建物をそのまま活用して新規出店する「居抜き出店」で効率的に店舗数を拡大したり、長崎屋やユニーという総合スーパーチェーンを買収することでスーパー機能を取り込みながら店舗網を拡充させたりすることに成功した経営戦略は、飛躍の大きな原動力となった。

それぞれの店舗の担当者に仕入れ・陳列・値付け・販売といった現場の多くの権限を委譲し、その成果を報酬や昇格に反映させる成果主義によって、各店舗が競い合って工夫や挑戦を重ねていくように促した組織づくりも、重要な成功要因として指摘できる。

2009年からスタートした自社開発のプライベートブランド「情熱価格」も成功要因の1つにあげられる。2021年にリニューアルし、顧客と一緒に商品を作る「ピープルブランド」として、顧客の声を集める取り組み「ダメ出しの殿堂」(※2024年2月末で終了。今後は「マジボイス」に移行)を活用しながら、顧客に驚きと面白さを届けるヒット商品を数多く生み出している。「とがる、刺さる、突き抜ける」の3つにこだわって開発された家電・雑貨・食品などの様々な「情熱価格」は、ドン・キホーテならではの新たな魅力となっている。

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写真=iStock.com/BlackSalmon
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ドン・キホーテのコア・コンピタンスは「魔境」だ

こうした経営戦略、組織づくり、PB商品開発など、ドン・キホーテの飛躍を支える要因は様々あるが、個々の要因を取り出して見てみれば、競合他社も同様の取り組みをしている場合は少なくない。やはり、核となる成功要因は、唯一無二のカオスな猥雑感を放つ「店づくり」に他ならない。他社にはマネできない独自の強みのことを「コア・コンピタンス」と呼ぶが、ドン・キホーテのコア・コンピタンスは「魔境」と自称する店づくりにこそある。

店内BGMソングで歌われる「ジャングル」や「宝探し」という言葉がよく当てはまる、多種多様な商品で溢れかえる店内空間には、雑貨・食品・アパレル・家電・高級時計など、大型店ではじつに10万点にも及ぶ膨大な商品が詰め込まれている。良い意味でゴチャゴチャしていて分かりにくい店内には、お客を長く滞在させるための様々な設計が講じられ、視線誘導する商品配置や、人気の定番品と利益率の高いPB商品を組み合わせた並びなど、じつはきめ細やかな仕掛けが盛り込まれている。こうしたドン・キホーテの店づくりの本質は、「迷う楽しさ」の追求にある。