物流を「コスト」とみなしている企業は生き残れない
沖縄への物流ルートを開設する際、UPSは沖縄に製品を出荷しているIT企業や複数の食品メーカーに営業をかけ、行きの混載便を構築。紀ノ国屋は、沖縄で製造できるドリンク商品の検討や、沖縄進出を見越して開発した「黒糖パン」の原材料を仕入れるなど、戻りのコンテナを埋める努力が続けられている。今後物流がつながるアジア各地においても同様に、両輪による国際版の「往復ビンタ」が動き始める見通しだ。
物流網の稼働を上げるには、紀ノ国屋の商品を卸す各地のローカルスーパーとの協力関係が鍵を握る。「アジアへの玄関口」になることを見越して物流倉庫まで新設した沖縄では特に、「物流の維持に対し互いにリスクを負うリウボウさんとの信頼関係と連携を重視している」と髙橋副社長は強調する。
沖縄の那覇空港内店舗やリウボウのデパートとストアで長野県産の土産菓子や果物などを販売する長野県の地域商社マツザワ(飯田市)は、リウボウを介してUPSとつながり、それまで1箱2000円台だった輸送費を、混載便に載せることで1000円以下に低減させた。
地方企業の難題を解決する切り札になるか
タイの食材を使った冷凍食品などを販売するCPF・ジャパン(東京都)は、タイ―東京間と変わらない輸送費で沖縄まで商品が届けられる見積もりを得て、昨年10月から初めてリウボウストアとの取引を開始した。
海外を含め多地域間で「仕入れ」が行き交う“往復ビンタ”の物流網は、相乗りする企業にも同時に開かれ、販路拡大の可能性を提供することになる。
物流はもはや、価格を競わせて値下げを試みる「コスト」ではない。商品開発と販路拡大、そして全国各地で奮闘する良質な食品メーカー、ローカルスーパーの流通支援に不可欠な「課題解決手段」だと位置づけたことに、視点の転換がある。
先行投資を仕掛けるイノベーターの紀ノ国屋にとっては、高速で展開する商品開発と供給網拡大の同時進行は、「損益分岐点ギリギリで、まだまだ苦しい」(髙橋副社長)という。UPSにとっての採算性確保も、まだ道半ばだ。
その反面、両社の商流に関わる仲間は全国津々浦々、着実に増えている。背負ったリスクと引き換えに積み上がる「濃密な信頼関係」(髙橋副社長)は、国難ともいえる物流と地方企業の販路拡大の難題に対処する、貴重な切り札になるかもしれない。