物流会社のやるべきことを「逆に教えていただいた」

例えば、東海・北陸方面の配送は、従来、別々のルートで独立し、行きと帰りで2人ずつ、計4人のドライバーが必要だった。だが、愛知県内の倉庫を中間拠点に東海・北陸方面を往復便でつなぎ直すことで、往復1人ずつ、合計2人のドライバーが労働時間の制約に触れることなく、業務を完結できるようになった。

往路と復路それぞれのトラックに載せる品があるからこそ生まれた、効率輸送をかなえる“往復ビンタ”拡充の成果だ。

新たな取り組みには、知恵も手間も、追加の投資も必要となる。紀ノ国屋の連携強化に動くUPSにとって、企業の勝算はどこにあるのか。

「紀ノ国屋さんが最初の道を切り拓く“リスクテイカー”となって走ってくれたおかげで、物流会社としてできること、やるべきことは何かを、逆に教えていただいた」と安田さんは表現する。

本来、物流とは荷主がいて、運ぶものがなければ道はできず、ビジネスも生まれない。紀ノ国屋が目的意識を持って拡大していく物流網の上で、UPSは混載営業でつながりのできた取引先とともに、新たなビジネス需要をつかみ始めており、24年問題に対応する原資、原動力になっているという。

目指すは沖縄を拠点にしたアジア→世界展開

日本では、物流業界誌の企業向けロジスティックス売上高ランキングで100位にも入らないUPSだが、今、紀ノ国屋の海外ルート開拓の波に乗って、国際物流大手として本領発揮のチャンスが巡ってきている。

改革のもう一つのテーマは、沖縄を基点にその先へ物流網を広げる紀ノ国屋の「アジア・世界戦略」だ。沖縄の物流倉庫を出口に、24年春からシンガポールや香港、台湾など東南アジア向けの商品出荷がスタートする。

紀ノ国屋は、22年9月に沖縄で開催した特販会で記録的な販売実績を叩き出したことを機に翌年6月、沖縄県内のリウボウストアに商品卸を始め、県内7店舗に常設売り場がオープンした。アップルパイをはじめ、本州よりも割高な商品については「今後、同一価格で販売できるようにリウボウと共に改善していく」(髙橋副社長)という。

商品販売と物流拡大で紀ノ国屋と連携するリウボウストアの親川純社長(左)=23年6月
写真提供=紀ノ国屋
商品販売と物流拡大で紀ノ国屋と連携するリウボウストアの親川純社長(左)=23年6月

同時にUPSも、常温、冷蔵、冷凍の3温帯物流倉庫を沖縄本島南部に開設。専用倉庫としての機能だけでなく、受注センターとして初めて、在庫管理と商品供給のコントロール業務を請け負う事業をスタートさせた。

「実際にアジア各地に行って商談してみると、沖縄がどれほど重要な位置にあるかを実感します。距離の近さ、スピード面、費用面でも、物流拠点が沖縄にあるというだけで、取引のハードルが一気に下がる」と髙橋副社長はいう。