店舗拡大戦略から、卸やフランチャイズ販売に転換

2020年のコロナ禍の始まりを機に、紀ノ国屋は客足の途絶えた首都圏を飛び出し、地方各地の百貨店やスーパーの軒先を借りて期間限定の「特別販売会」を展開してきた。その数は、昨年までの4年間で90会場、売上高にして9億1600万円に上った。

毎回、各催事場に名物のアップルパイや自家製の惣菜、スイーツ、雑貨など500品目を超える食品や雑貨を運搬する。21年以降の特販会から、トラックやJR貨物、航空、船舶を駆使し、地方から地方へ、商品の輸送と保管、供給を支えたのが、UPSだった。

紀ノ国屋は主要都市への自社店舗の出店にめどをつけ、今後は卸やフランチャイズ販売を増やし、オリジナル商品の供給網拡大を軸にブランド認知を国内外に広げていく方針を掲げている。特販会を通してローカルスーパーに流通する豊かな食文化に触れ、各地に根付く事業者との連携可能性を見出したことが、後押しとなった。

髙橋副社長は、全国から海外へとつながる物流網の構築を「先行投資」と考え、先にやるべきことを走らせながら、「コスト面・ルートの面で最適化を図り、採算がかなう方法を一緒に考えてほしい」とUPSに求めた。

UPSの貨物航空機=23年12月・香港国際空港
筆者撮影
UPSの貨物航空機=23年12月・香港国際空港

片荷輸送という最大のロスをなくす「往復ビンタ」

流通企業の売上高に対する物流コスト比率は一般的に3~5%といわれ、近年はさらに上昇傾向にある。髙橋副社長が当初UPSと契約した内容は、その平均値の最大10倍。法外なコスト比率を許容してまで、安定的に商品が届けられる物流網を構築することにこだわった。

「責任は重いと感じました」

UPSでロジスティックスの担当部長を務める安田誠一さんは振り返る。

「通常は価格が第一ですから。高ければすぐに取引先を変えることが当たり前ですが、走り出しの全く採算が合わない状況でも紀ノ国屋さんは全面的に頼ってこられた。食品スーパーとして毎日モノを届けることの難しさを感じながら、髙橋副社長が目指すビジョンに共感し、なんとかしなければと必死の思い。このような取引関係は初めての経験でした」

紀ノ国屋とUPSが共同で仕掛ける改革のキーワードは、物流の往路と復路、それぞれの貨物便を可能な限り満杯にして生かし切る、「往復便」にちなんだ、通称“往復ビンタ”(UPS)の拡充だ。

両社が構築する配送ルートは、往復するトラックやコンテナが「片荷輸送」にならないことを目指す。UPSが主体となって、ルートの重なる顧客をマッチングしたり、混載できる荷主を探したりして企業の集荷営業に走る。