悲願の進出を叶えた相棒は物流世界大手

同社が「唯一無二のパートナー企業」として手を組むのは、世界220カ国・地域に宅配ネットワークを有する米物流大手UPSの日本法人、ユーピーエスサプライチェーンソリューション・ジャパン。

貨物航空機の保有台数では世界最多。ヤマト運輸が宅配事業のモデルにしたことで知られる創業117年の老舗企業で、日本には1990年にヤマトとの合弁で進出した。2002年に合弁を解消し、国内では企業向け国際物流、越境EC物流、サプライチェーンの改善提案を担っている。

現在、紀ノ国屋の販路開拓の現場には、マーケティング、商談の段階から常にUPSのスタッフが伴走している。

筆者は、2022年9月に紀ノ国屋が沖縄のデパート「リウボウ」内で特別販売会を開催した際に髙橋副社長に出会い、同社の地方戦略について取材した。その催事会場にもUPSの担当者の姿があったのだが、その意味と背景をつかんだのはそれから9カ月後、紀ノ国屋がUPSを引き連れて共同で「沖縄初進出」を果たした時だった。

企業の物流は一般的に、荷物の種類や目的地ごとに、より安くより効率よく運んでくれる物流会社を選定し、配送や在庫管理などを委託する。食品スーパーを経営する紀ノ国屋にとって、首都圏の限られた域内に店を出していたころは物流に悩まされることなど、ほとんどなかった。ところが、全国にモノを運ぶようになると物流は「大きな壁」となって立ちはだかった。

なぜ日本の物流企業ではダメだったのか

地域の配送業者と連結がうまくできずルートがつながらない、商品の扱い方や供給頻度、温度管理など細かな要望に十分対応してもらえない、効率よく運べず収益性が改善しない、といった問題が多発。日本の物流会社とでは世界展開を念頭に置いた物流ルートを敷くことができず、頭を抱えていた。

髙橋副社長はこう語る。

「紀ノ国屋がつくる価値ある商品は、全国各地の食材やメーカーの技術によって生み出される。絶対に廃れさせたくない、日本の大切な財産そのものです。各地に散らばる製造拠点、メーカーをつないで海外に出ていくには、物流が絶対的な要になります。

でも、小売企業がいくら『物流の壁』の克服を考えてもらちがあかない。コスト削減ありきで物事が動かないケースが山ほどある。コロナ禍が明けて、ここで脱皮できない企業はおそらくだめになるという危機感がありました」

「今後、世界に出ていく計画を考えれば、相手は国際物流を得意とする会社がいい。最初から世界とつながるUPSにパートナーとしてチームに加わってもらって関係性を築き、ゼロから物流網をつくることを目指しました」

日本式アップルパイを世界に売り込むため、紀ノ国屋髙橋一実副社長(左)は台湾の催事で売り場に立った。右はUPSの安田誠一さん=23年5月
写真提供=紀ノ国屋
日本式アップルパイを世界に売り込むため、紀ノ国屋髙橋一実副社長(左)は台湾の催事で売り場に立った。右はUPSの安田誠一さん=23年5月