ジャズは孤独な盛り上がりを楽しむもの
他方、微妙な演奏のニュアンスの違いが生み出す「個性的表現」が聴きどころであるジャズは、それぞれのミュージシャン特有の持ち味を把握するのにそれなりの観察眼・集中力が要求される音楽です。漫然と聴いていても楽しめるとは限りません。それと引き換えに、ツボさえつかめば、お気に入りのミュージシャンならではの「聴かせどころ」が一層魅力を増していく奥の深い音楽なのです。
そのことと関りがあると思うのですが、ジャズの聴衆は盛り上がりこそすれ、「共感の中身」はあくまでミュージシャンと自分という「個」の関係になりがち。この辺りもジャズが大人の音楽とされる理由なのかもしれません。粋な大人は決して群れません。
系譜でディグる教養的なおもしろさ
一概には言えませんが、ポップス界の大物たちはそれぞれ独立した魅力・輝きを放っているようです。ロックの先駆け的レジェンド、ビートルズとローリング・ストーンズは共にイギリスが生んだ大スターですが、必ずしも両者に共通した音楽的要素があるようには思えません。それと関りがあるのか、ファン層もビートルズ派とストーンズ派に別れているような気がします。
他方、ジャズはミュージシャンの人間関係・音楽性が深く絡み合っているので、マイルス・デイヴィスのファンがジョン・コルトレーンも聴くという現象が起こるのですね。これは一時期コルトレーンはマイルスバンドのサイドマン(サポートミュージシャン)だったので、当たり前と言えば当たり前なのですが……。
こうした事情から、ジャズではちょっと高度な楽しみ方も用意されているのです。マイルスを聴いているファンはコルトレーンの演奏も耳に入るので、「ちょっとコルトレーンのアルバムも聴いてみようか」という趣味の広がりが期待できるのです。
また、天才的ピアニスト、バド・パウエルは以後のピアノスタイルに圧倒的な影響を与えたため、「パウエル派」と呼ばれる一群のピアニストたちが誕生しました。彼らのスタイルには強い共通項があるので、その中の一人、たとえばウィントン・ケリーが好きになると、同じパウエル派のケニー・ドリューにも食指が動くという、ちょっと高度でマニアックな楽しみ方ができるのですね。この辺り、まさに「大人の音楽」ならではだと思いませんか。