深くは考えず聞き慣れる is BEST

ジャズのアドリブがデタラメではなく、西欧音楽由来のコード進行に従った一種のゲーム的な操作であることはお解りになったかと思います。

そこででてくるのが、「なぜジャズミュージシャンはそんなややこしいことをするのか?」という根源的疑問ですよね。

その理由は意外とシンプルで、ルイ・アームストロングが先導した「自分らしさを出す」ためだったのです。パーカーの「発明」は自己表現の幅を大きく飛躍させ、高度化したのです。

ルイ・アームストロングをフィーチャーした米国の切手
写真=iStock.com/traveler1116
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ちなみに、ルイをはじめとしたパーカー以前のジャズミュージシャンのアドリブは、原曲のメロディラインを自己流に崩す程度だったので、普通の音楽ファンにも親しみやすかったのですね。

そこで最後に出てくる疑問は、「ジャズファンはパーカーが発明した“音楽理論”を理解したうえで楽しんでいるのか?」でしょう。こうした疑問は根強く、敷居の高さに一役も二役も買っているのですね。

答えはシンプルです。ジャズミュージシャンは高度な音楽理論を身に付けていなければとうてい演奏などできませんが、聴く方はそんな知識は微塵も必要ないのです。

私たちはレストランで「これは美味しい」と思ったとき、瞬時にそのレシピを言い当てることなどできるでしょうか? それができるのはプロの料理人さんだけですよね。私たちは「聴き慣れれば」すぐに訪れるジャズならではの「納得感を伴った個性的表現」を楽しめばいいのです。

一体感を得られるロックやポップス

ロック、ポップス、そしてアイドルミュージックのファンは音楽の魅力にひかれ、ファンとなると同時に「同じミュージシャンを聴く仲間の一員」となる喜びも少なからずあるようです。それは大観衆がそろってペンライトを振ったり、ミュージシャンの名前や顔が描かれたTシャツなどがよく売れることに現れています。

要するに音楽を通じ、他者との「一体感」が得られる喜びも無視できないのです。野球、サッカーのファンが推しチームのユニホームを着て盛り上がるのと似ているのかもしれませんね。

こうした「一体感を伴った楽しさ」は誰しもが体験できるものなので、若年層が最初に魅せられる音楽ジャンルがポップスであることに、理由はちゃんとあるのです。