「強みの補強」と「弱みの転換」の違いについて

自分にはこの要素が足りないとか、このテクニックがマスターできていないとか、いちいち細かなことまで気に病む必要はないのだ。自分に何が足りないかは、自分がいちばんよく知っているんだと割り切って、やがて自分に耳ができるときを待つことである。

なお図表1に示したように、全体のイメージで捉えて身につけたノウハウは、汎用性を持つことが多い。対して、お勉強形式で学ぶテクニックなり手法のほうは、ある具体的な事例や特定の業界だけに限ってしか使えない場合がほとんどだ。

プレゼンの上達法(1)のほうを、私は「強みの補強」と呼んでいる。

すでにある程度までのプレゼン能力があって、その強みをさらに補強していくには、こちらの方法がいい。

一方、コツで学ぶ上達法(2)のほうは、「弱みの転換」となる。

新入社員のようにまだプレゼン能力を身につけていない人たちを短期間で一人前に育てる、あるいはもっと欲張って、立派なスキルとして通用するまでに高めていく。弱みを補強するのではなく、いきなり強みに転換してしまうという意味を込めた。

これを可能にするのは、70点を80点へと10点だけアップする上達法(1)ではなく、40点を70点へとたちまち30点アップする上達法(2)のほうなのである。

ビジネスマンとしてでき上がったあとからはごくオーソドックスに、細かなテクニックを一つひとつ学んでレベルを上げていけ、新入社員はそれでは間に合わないから、コツで学んで短期間のうちに一人前のレベルにまで飛躍しろ、というわけだ。

早く一人前になれば、それだけ早く耳もできてくる。そのときは、コツで学んできたことによってプレゼンを基本から捉えているから、細かなテクニックもほんとうの意味で血となり、さらに肉となってくれる。

これが最強のプレゼン上達法だと思うのだが、いかがだろうか。

ビジネスマンのトレーニングのイメージモデル
写真=iStock.com/Parradee Kietsirikul
※写真はイメージです

「真面目で努力家」はかえって伸びない

以上、プレゼンテーション能力をアップするのは、私の経験からはさして難しいことではなかった。

しかし現実には、いつまでたってもプレゼンがうまくならないビジネスマンが、あちこちにゴロゴロしている。これはやはり、教え方が間違っている、学び方を知らない、という以外に考えられないだろう。

こうしてみると、もっと広く「何を学ぶか」と「どうやって学ぶか」というのは深く関係してくるようだ、ということも身にしみてわかってくる。

先ほど、プレゼンが上達するためには上司や先輩のいうことを聞いてはいけない、と書いたのもしかりである。プレゼンの基礎さえ知らない人に「気の利いた冗談の1つも交えるといい」と教えるのと一緒で、何事にも、そのときどきのその人のレベルによって、もらってはいけないアドバイスがいっぱいあるのだ。

これはつまり、新入社員がプレゼンを学ぶときには、上司や先輩のアドバイスを参考にしても上達しない、そういう学び方は間違っている、ということになる。

たとえば、前出のBさんは非常に真面目な方で、上司のアドバイスなどに真剣に耳を傾けていた。プレゼンが終わったあとで、あそこはこうしたほうがいい、ここはこんなふうにしてみろといわれると、素直にそれを取り入れて練習する。

「おまえ、落語を聞け」といわれると、さっそく寄席に行く。前の日に十回練習してこいといわれたら、そのとおりにキッチリと十回練習してくる努力家であった。

真面目で努力家が悪いわけではないが、現実にはこれではダメなのである。

こういう覚え方をしていたら、プレゼンは一向に上達しないのだ。