上司や先輩のアドバイスは無視しなさい

図表1に戻れば、上達法(2)に「感覚(?)」と記してあるのがこれだ。

当時の私がこのとき悟ったのは、やはりプレゼンも自分で発見していく学び方が大事なんだよな、ということだった。

この気持ちはいまも変わらない。

堀というデキる人と一緒にいて自ら感じ取ったことを信じる。その航空会社の仕事も同じで、自分でやってみて気づいたことを大切にする。こちらのほうが、人から教えられるよりも格段によく身につくし、仕事の役にも立つ。

たとえばゴルフなどもそうで、中途半端にうまい人からアドバイスされても、ほとんど役に立たないことが多い。もし、ものすごく上手な人が非常にうまくコツの部分だけ教えてくれるなら話は別だろうが、そんなことはなかなか望めないのがふつうだ。

また、これは教えてくれる人のせいというよりも、こちらのほうがまだそれを吸収できる段階にないせいだったりもする。プレゼンでいうなら、コツがわかっていない人が、周りのアドバイスに従って説明のなかに冗談を交える練習をしても、それは空しい努力に終わってしまうことになる。

自分では気の利いた冗談を織り込んだつもりでも、本番で大きく外して冷笑されるハメになることが実際によくある。したがって、ここでミもフタもない結論をいってしまうと、「上司や先輩のアドバイスは聞いてはいけない」のだ。

しかも、あなたの上司や先輩がデキる人かデキない人か、その如何にかかわらず、である。

デキる人をしっかり観察すると「耳ができる」状態になる

私も、プレゼン能力がついたと周りから認めてもらえたころ、堀から「おまえ、オレのやり方を盗んだだろ」とからかわれた。

そのとき私は、「いや、そんなことはありません」と答えたと思うが、これは、個々のテクニックを盗んでいるわけではないという意味である。

その代わり、身近にいてただひたすら、いろんなことを感じ取らせてもらった。

そういう自分なりのさまざまな気づきが、あるとき突然にといったふうにして、一気に実になってくれる瞬間があるのだ。その瞬間が訪れた人は、世間一般でいう「耳ができる」状態になる。

いったん耳ができると、あとはもう楽なものだ。

いちいち意識して、このテクニックを盗もうとか、こういうのは練習して身につけたほうがいいな、と考えなくてもよくなる。

上手な人のプレゼンを聞いているだけで、いままで見えなかったことがどんどん見えてきて、テクニックもノウハウもコツも、いわば勝手に向こうのほうから飛び込んでくるといった感じで、面白いように身についていくのだ。

会議で発表を聞くビジネスマン
写真=iStock.com/kazuma seki
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手本になるようなデキる人をしっかり観察し続けているうちに、それまで蓄積したさまざまな「気づき」が一気にブレークしたごとく、あなたの学習能力にグンと加速度がつく瞬間が訪れる、という言い方をしてもよいかもしれない。

およそプレゼン能力は、とくに意識して鍛えようとしなくても、ただお手本と接しているだけで自然にアップするものなのだ。そのうえにタイミングよく、耳ができたり、あるいはできはじめたときに反復して練習してやると、加速度的に能力アップしていく。

プレゼンに限らず、すべてのことはこの力学に沿って学ぶのがいい。

そのときのポイントは、お手本を一つひとつ細かな要素に分割して考えずに、全体のイメージで捉えて学ぶこと。知識として学ぶのではなく、自分の気づきから学ぶこと。この2点である。