夫が不倫。探偵を雇って証拠を押さえ、高額な慰謝料を取ろうとしたものの、探偵費用すらカバーできず大きなマイナスに……。離婚や男女問題に詳しい弁護士の堀井亜生さんは「『不倫といえば高額な慰謝料』という“慰謝料神話”にだまされ、その後の見通しを誤る人は多い。まずは弁護士に相談して、現実的にはどんな選択肢が考えられるかを探ってほしい」という――。
※本原稿で挙げる事例は、実際にあった事例を守秘義務とプライバシーに配慮して修正したものです。また、探偵の費用は調査会社によって異なります。
離婚届の上に置かれた電卓とたくさんの一万円札
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夫が不倫、「慰謝料で一生安泰」なのか

主婦のA子さん(38歳)は、会社員の夫(40歳)と結婚して10年になります。2人の間に子どもはなく、この数年は不仲で、ことあるごとに怒鳴りつけてくる夫に対して、A子さんは不満を持っていました。

夫はコロナ禍が収まってしばらくすると、出張だと言って家を空けることが増えました。夫のスマートフォンを見てみたところ、どうやら職場の同僚らしき女性と不倫をしていて、出張だという日は女性とホテルに泊まっているようでした。

友人に相談すると、「探偵をつけて証拠を取ったら? 旦那さんに突きつけたら慰謝料がたっぷりもらえて一生安泰ね。旦那さんの親もお金があるから、そっちからも慰謝料が取れそう」「マンションのローンを払わせて、権利ももらえるんじゃない?」と言われました。

すっかりその気になったA子さんは、ネットで見つけた探偵に相談をしました。

探偵費用に400万円

「調査費用は200万円です。証拠があれば慰謝料を取れますし、探偵の費用も夫や不倫相手に請求できますよ」と言われ、へそくりからお金を出してそのまま依頼をしました。

最初に1週間夫を尾行してもらいましたが、同僚と飲み会に行っただけで、不倫相手と会っているところの写真は撮れませんでした。ショックを受けているA子さんに対して、探偵は「経験上、もう1週間延長すれば女性に会いそうな気がします。調査員も複数体制の方がいいですよ」と言われ、ここまで来たら必ず証拠を取りたいという一心で、両親からお金を借りて追加で150万円を支払いました。

その結果、無事に夫が女性とホテルに入る写真を撮影できたのですが、今度は「訴えるためには相手の女性の住所や氏名が必要ですよ」と言われ、その調査費用として、追加で50万円を支払いました。

400万円かけて探偵からの調査報告書を手にしたA子さんは、それを夫に突きつけることにしました。謝ってくれれば今後の夫婦生活で優位に立てるし、謝らないならたっぷり慰謝料をもらって離婚しようと思ったのです。