僧侶が病院、ホスピス、高齢者施設などで活動する

都会型寺院は商業施設との融合が進むだろう。本コラム2023年5月27日配信の「53歳元エリート銀行マンが仕掛けた『寺+ホテル一体のビル』が大繁盛」では、建物の老朽化によって存続が危ぶまれた京都と大阪の古刹が、ホテルと一体化させることで再建に成功させた事例を紹介した。

また、大阪・御堂筋にある真宗大谷派の中核寺院、難波別院では、山門とホテルとを一体化する事業が話題になっている(2023年7月5日配信「“倒壊危機”で出費90億円超の絶体絶命…大阪の古刹が編み出した『寺の門とホテルの一体化』というスゴ技」)。

大阪の御堂筋に完成した寺院の山門とホテル一体型ビル
撮影=鵜飼秀徳
大阪の御堂筋に完成した寺院の山門とホテル一体型ビル

ホテルだけではなく、例えば東京都内では、商業ビルやマンションとの一体型寺院も増えてきている。いずれも、家賃収入によって寺院経営を健全化させる都会型寺院のスキームとして、有効な手段だと思う。ホテル宿泊客やビルの利用客、マンションの住民らに対し、新たに仏教との接点が生まれることも期待できそうだ。

仏教の役割も、社会の求めに応じて少しずつ変化していくことだろう。「葬式仏教」から「医療・福祉仏教」への転換である。

「葬式仏教」とは、弔いばかりに熱心で、教えを説くことが疎かになっている仏教界を揶揄する言葉として定着している。この形骸化した「葬式仏教」から、「超高齢化社会を背景にした救済仏教」へとシフトする。つまり、今を生きる人々をいかに救い取るかが、仏教の生命線になってくる。

具体的には医療の現場や福祉の現場に、宗教者である僧侶が入り、心のケアを行うことである。欧米では「チャプレン」という名称で、軍隊や病院などに宗教者が入り、スピリチュアルケアを行ってきた歴史がある。

厳格な政教分離を敷く日本では、公共の施設、とりわけ死の現場に僧侶が入ることが敬遠されてきた。だが、2011年の東日本大震災をきっかけにして、被災者の苦悩や悲嘆に寄り添う宗教者への期待が高まり出す。「臨床宗教師」「臨床仏教師」と呼ばれる資格制度ができ、養成が始まり、成果を出し始めている。この「日本版チャプレン」が超高齢化社会、多死社会の中でより存在感を増していくことだろう。

なぜなら、孤独や死の恐怖に長期間さらされてしまうのが長寿化の側面だからだ。家族や地域共同体の中で看取る時代は終わり、多くが独りで死んでいく。孤独死予備軍は2030年には2700万人にも及ぶ、とも言われている。そうした中で、老いや病、そして死を受容するための新しい仏教の存在が必要になってくる。

いま若い僧侶の志向も、こうした臨床の現場に向いている。僧侶が、病院やホスピス、高齢者施設など医療・福祉の現場で活動する時代は、そう遠くはない未来のことだと思う。

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